第27話 クリスマスを過ごす場所

 迎えた翌日の放課後。

 悠馬は利香と一緒に渋谷のカフェを訪れていた。

 若者が多く集う街渋谷。

 流石はサブカルの待ちということもあり、店内も多くの学生で賑わっていた。

 そんな中、向かい合わせの席に座り、お互い居住まいを正して注文したドリンクを無言で嗜む男女が一組。

 わいわいガヤガヤ賑わっている店内で異質な雰囲気を纏う二人こそ、悠馬と利香であった。

 周りから見て、今からクリスマスデートのプランを考える予定であることなど、微塵も思わないような無言っぷりである。


「えっと……それで、クリスマスの予定を決めるって事だったんだけど」


 重苦しい雰囲気を破るようにして、悠馬が尋ねると、利香はストローから口を話して、小さく頷いた。


「うん、せっかくだし、西野君が行きたい所にしようかなと思って」

「別に俺に合わせてもらわなくても、吉川さんが行きたいところでいいんだよ?」

「でも、元はと言えば私から誘ったわけだし、西野君のいきたいところを聞いておくのが筋でしょ?」

「そんなの気にしなくていいって。俺は吉川さんと一緒に居れればそれでいいんだから」


 少し恥ずかしったけれど、本心を口にすると、利香はぽっと顔を赤らめる。


「それで、吉川さんはどこか行きたいところとはある?」


 再度利香に尋ねると、利香は少々視線を泳がせつつ、躊躇いがちにこちらを窺ってくる。


「その……西野君が良ければなんだけどね。私の家でクリスマスパーティーしてもいい?」

「えっ……吉川さんの家で?」

「うん。多分、外はどこも混んでるだろうから、二人でまったり過ごしたいなと思って……ダメかな?」

「いや、ダメではないんだけど、俺なんかがお邪魔していいの?」

「私は構わないよ。それに、西野君はもう家に来たことあるじゃない」

「あ、あれは不慮の事故と言うか、終電を逃しちゃった俺が悪いわけで、改めてお邪魔するってなると、何だか緊張すると言いますか……」


 悠馬が言葉尻に口籠ると、利香が可笑しそうにくすりと笑みを浮かべた。


「ど、どうしたの?」

「何でもない。そういう所が西野君は律儀で真面目だなって思っただけ」


 悠馬が首を傾げていると、利香がパンと手を叩いて話を元に戻す。


「それじゃあ、クリスマスは私の家でパーティーするって事で決まりね!」

「分かった。何かこっちで用意するものがあったら言ってね。準備するから」

「ありがと。今のところは思いつかないから、西野君は予定を空けておいてくれるだけでいいよ」

「うん……頑張るよ」

「頑張る?」

「いや、何でもない。こっちの話」


 利香は一瞬不思議そうに首を傾げていたけれど、すぐさま表情を柔らかくして、クリスマスデートに思いを馳せているのか、頬が緩ませて楽しそうな様子。

 一方の悠馬はと言えば、由貴からの誘いをまだ断れていないことに後ろめたさを感じていた。

 昨日はアルバイトが忙しすぎて、直接断ることが出来なかったので、メッセージでその旨を伝えたら、『後で詳しく事情を聞かせてもらうから』と言われてしまい、この後由貴に事情を説明しなければならないことになっている。

 元はと言えば、由貴が一人で寂しいクリスマスを過ごしたくないという思いから、下着姿を見てしまった罰として、半ば強制的にクリスマスの予定を入れてしまった悠馬が悪い。

 きっぱり断っていればよかったものの、当時は利香に彼氏がいるモノだとばかり思っていて、クリスマスは一人身だと断定していたので、どこか心の中に悠馬の寂しさを感じていたのだろう。

 その結果が、このダブルブッキングという最悪の事態を迎えてしまったのだ。

 とにかく、悠馬は素早く丁寧に由貴に事情を説明して、謝罪をする必要がある。


「それじゃあ、そろそろ俺はアルバイトに行くよ。クリスマス楽しみにしてる」

「うん! またね西野君! あっ、今日も家まで送ってね」

「あぁ、うん。分かった」


 利香に言われて、アルバイトが被った日は、彼女を家まで送り届ける約束をしていたことを思い出す。

 クリスマスのことで頭がいっぱいですっかり忘れていた。

 こうして利香と別れて、悠馬はアルバイト先へと向かっていくのであった。

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