第24話 アシスト
颯からの衝撃のカミングアウトを受けて、悠馬の頭の中は混乱状態になっていた。
「芝原君、姉ちゃんと付き合ってるの!?」
「わ、悪いかよ」
軽く頬を染めて照れる芝原君。
その反応を見るに、芝原君が言っていることは本当のようだ。
「いや、別に悪くはないけど……。えっ、じゃあ芝原君が吉川さんの彼氏っていうのは!?」
「知らねぇよ。逆にどこで入手したんだよその情報は?」
「だって芝原君、部活でも吉川さんと仲いいし、この前だって、一緒に帰るの見たから」
「あーなるほど……」
何処か納得した様子で頷く颯。
「俺と吉川は同じアルバイト先なんだよ。この前は店長にヘルプ要請されて、たまたま一緒に向かっただけだ」
「へっ……じゃあ二人が部活中に秘密めいた話をしてたのは……?」
「多分バイトのシフト関連の話だろうな」
「つまり、俺の早とちりだったって事……!?」
颯から告げられた衝撃の事実に、悠馬は力が抜けて膝を地面についてしまう。
「これで分かってくれたか? 俺が吉川とは何もないって」
「それは分かったけど……じゃあ俺を屋上に呼び出したの? 芝原君に何か恨みでも買ったかな?」
「はぁ? 別に何も買ってねぇよ」
「でもその傷跡は明らかに喧嘩っ早い証拠でしょ!」
悠馬は颯の顔に貼られている絆創膏やガーゼを指出した。
すると、颯はばつが悪そうにしながら頬を指で掻く。
「これはその……吉川がバイト先に筆記用具忘れてったから、学校で渡してやろうと思ったら、寧々さんに持ってるのバレて問い詰められたんだよ」
「……なんか、姉がすいません」
実の姉の凶暴性を垣間見てしまい、家族として申し訳ない気持ちが沸き上がってきてしまい、悠馬は頭を下げることしか出来なかった。
「いや、そもそも寧々さんを勘違いさせるようなことをしちまった俺が悪いから気にするな」
一体颯は、寧々のどこに惚れたのだろうか。
自身の姉の女としての魅力がまるで分らない悠馬は首を傾げて疑問符を浮かべる。
颯は誤魔化すようにして、一つ咳払いをした。
「とにかく、俺がわざわざ呼び出したのは、寧々さんとの仲直りも兼ねて、今度のクリスマスのプレゼントを選ぶのを手伝って欲しいんだ」
「えっ、芝原君姉貴とクリスマスデートするの!?」
「まあ、一応付き合ってるわけだから当然だろ」
颯が恥ずかしがる様子を見て、今まで勘違いしていたのが申し訳ないほど、悠馬の中で颯の好感度が爆上がりになっていく。
「最近、何か寧々さんが欲しいものとか言ってなかったか? それだけでも分かればありがたいんだけど……」
「うーん……欲しいものかぁ」
悠馬は顎に手を当てて寧々とのやり取りを思い返す。
普段あまり家での会話が少ないのもあるけれど、寧々が夜遊びに出かけていて、そもそも家にいないというのもあり、すれ違いが発生しているのため、悠馬は寧々が欲しいものというものが見当もつかなかった。
「ごめん、あんまり姉貴とそういう会話したことなかったから、芝原君のお眼鏡に叶えるものを提案できる気がしないや」
「そうか……まあそうなったらしょうがねぇな。自分で考えることにするよ」
「力添え出来なくてごめんよ」
「別に謝らなくていいって。元はと言えば、もっと事前に準備してなかった俺が悪いんだし」
そう言って、颯は手を横に振って大丈夫だと悠馬のことを咎めるどころかむしろ感謝の意を述べてくる。
悠馬の中で、恋敵から完全にいい奴へと変貌と遂げた瞬間であった。
「あーそうだ。吉川から伝言を預かってるんだ」
「で、伝言……?」
突然吉川さんの話題が出てきて目を丸くしている間に、颯は淡々とした口調で言い放つ。
「今日の放課後、プールサイドの所で待ってるだそうだ」
「えっ……それって呼び出しって事?」
「だろうな。絶対行けよ?」
「わ、分かったよ」
颯からの圧を感じて、悠馬は首を縦に振った。
これこそ、利香から事情を聞いた颯が思いついた作戦。
人伝てに呼び出しの約束を取り付ける事。
利香が勇気を踏み出せないのであれば、サポートしてやるのが友達としての役割だと考えたのだ。
寧々のクリスマスプレゼントを聞く流れで、ついでな感じで言うことにより、障壁を軽くしようという魂胆である。
それにしても、まさか利香と颯が付き合っていると勘違いしていたとは、流石に予想外ではあったものの、これで悠馬が勘違いしていた誤解も解け、利香からクリスマスデートに誘われても断る口実が無くなったということ。
舞台は整った、後は利香が勇気を振り絞ってデートに誘うだけである。
しかし、颯は知らないのだ。
悠馬が既に、クリスマスに別の予定が入っているということを……。
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