第15話 寝取っちゃえよ
教室前で別れて、それぞれ前と後ろの扉から教室へと入室する。
「はぁ……疲れた」
自席の背もたれ背中を預けて、悠馬はどっと座り込む。
昨日から色々なことがあり過ぎて大変だったので、ようやく一息つくことが出来たのだ。
「おっす悠馬。遅刻なんて珍しいな」
とそこで、クラスメイトの
「おはよう拓也」
「ひでぇ顔してるな。どうしたんだよ?」
「ちょっとな、色々あって」
悠馬が適当にはぐらかすと、今度は廊下側から女子生徒の声が聞こえてくる。
「利香が遅刻なんて珍しいね。何かあった?」
利香の友人である
「実は、昨日目覚ましかけ忘れちゃって、寝坊しちゃったの」
明確な理由をでっち上げ、利香は平然と柴乃へ嘘をついていた。
「分かるー! 私もそれ何回もやったことあるわー。んで、『アンタ遅刻するわよ!』ってお母さんにたたき起こされるっていうのがほとんどだわ」
柴乃は利香が嘘を吐いたことに気付いた様子もなく、自身の体験談を語っていた。
その様子を見ていると、拓也がにやりとした笑みを向けてくる。
「もしかして悠馬、お前吉川と朝チュンでもしたか?」
「ブッー!」
拓也からのぶっこみに、悠馬は噴き出してしまう。
「げほっ……げほっ……」
ついでに喉に変なものが突っかかってしまい咳き込んでしまう。
悠馬の動揺具合を見た拓也は、目をパチクリとさせて唖然とした表情を浮かべる。
「えっ、お前マジで言ってる?」
「ちげぇっての!」
「いやいや、その反応はどう見たって黒だろ」
「違うんだって! 今のは拓也が変な事言うから呼吸が可笑しくなっただけだって」
「本当かぁ?」
「マジで俺も寝坊しただけで、吉川さんとは偶然電車で合っただけなんだってば」
「その当てつけ感が余計に怪しいんだが」
訝しむ視線を向けてくる拓也。
必死に何度も違うと抵抗を試みると、流石の拓也も面倒になって来たのか深いため息を吐いた。
「分かったってば。お前がそこまで言うなら、今回はそう言うことにしておいてやるからよ。にしても、俺はてっきり、悠馬が吉川のハートをがっちりキャッチのしたとばかり思ったぜ」
「嫌々、無理に決まってるでしょ。だって吉川さん彼氏いるんだから」
そう、昨夜は不測の事態だったとはいえ、吉川さんには彼氏がいるのだ。
泊めてもらったことだけでも感謝しかないのに、これ以上面倒事を起こしたくはない。
「でもお前、吉川の事好きなんだろ?」
「そ、そりゃまあ……好きだけど」
「なら、NTR決めちまえって」
「バカ! そんなことできるわけないだろ!」
「アタックしてみないと案外わからないぞ。意外と吉川さんも満更でもなかったりしてな」
「そんなわけない。俺の事なんてただのクラスメイトとしか思ってないよ」
吉川さんが男をとっかえひっかえするタイプじゃないことぐらい、普段の健気な姿勢を見ていれば分かる。
ついでに、悠馬に対して恋愛的な気を持っていないことも周知の事実だ。
もちろん、悠馬が勝手に勘違いしていることは、言うまでもないことである。
「分からねぇぞ。俺の姉ちゃんも最初は『彼ピ好きピー!』とかうつつを抜かしてやがったのによ。向こうが忙しくてあえなくなるとすーぐ『寂しい』とか落ち込んで、誘われた飲みの席で出会った男に優しくされてコロっと鞍替えよ」
「やめろ縁起でもない! それに、お前の姉ちゃんの話だろ! 吉川さんはお前の姉ちゃんみたいにとっかえひっかえなんてことはない」
「意外と女ってのはメンタルが弱いんだぞ。そこに付け入るのも一つの手だけどな」
「俺はちゃんと正攻法で行きたいんだよ。とにかく、そんな付け入るような真似はしたくない」
「殊勝なこった。まっ、せいぜい頑張れよ」
拓也に同情めいた視線を向けられ、ポンと肩を叩かれた。
「そういう拓也はどうなんだよ? 彼女出来たのか?」
「ふっ……お前と違って俺は心が広いからな。勝手に女の子が寄ってくるのさ」
「悪い。聞いた俺が馬鹿だった」
拓也の武勇伝話が始まってしまいそうな雰囲気だったので、悠馬は話をぶった切って姿勢を前に向けた。
「おいおい、そっちから聞いておいてそれはひでぇな」
ぐいぐい服の袖を引っ張ってくる拓也。
悠馬は虚ろな目をして無視を決め込む。
拓也は容姿がいいこともあってモテるのだ。
学校内だけに留まらず、街中でも大人の色気を纏ったお姉さんから声を掛けられることもしばしば。
悠馬みたいな非モテ男とは違い、拓也には恋愛の神様が宿っているのだ。
そんなモテ友人の武勇伝を聞かされて清々している頃……。
何とかクラスで寝坊したといいわけで乗り切った利香はというと――
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