第14話 次なる約束
「本当にごめんね
布団を畳み終えたところで、
「全然気にしてないから平気。私としては、
「この寝間着は洗って返すよ」
「そこまでしなくていいよ。私の方で洗っておくから」
「いや、流石にそれは申し訳ないよ……」
「いーから平気! そのままの方がむいろありがたいし……」
「えっ、何か言った?」
「なんでもないよ! あっ、制服匂い取れたかな?」
利香は何やら慌てた様子で、ハンガーに掛けられている悠馬の制服を嗅ぎ、タバコの匂いが消えたかどうか確かめる。
「はい制服! ちゃんと匂い取れたみたい」
「ありがとう」
悠馬は制服を受け取り、着替えるために脱衣所へと向かう。
脱衣所の扉を閉めようとしたら、なぜか利香が脱衣所の前までついて来ていた。
「ど、どうしたの?」
「へっ?」
「俺、今から着替えるんだけど……」
「あぁそうだよね! ごめんごめん! なんか無意識についてきちゃった。あははっ、じゃ、着替え終わったら教えてね!」
慌てた様子で利香は脱衣所の扉を閉めてくれた。
悠馬は借りてもらった寝間着から制服へと着替えていく。
「着替え終わった?」
「うん、終わったよ」
脱衣所の扉を開けると、利香も制服姿に着替え終わっていた。
「ごめん、利香が脱衣所で着替えた方が良かったよね」
「大丈夫、気にしてないから! 気遣いありがとう」
利香も制服に着替えることを完全に失念して、勝手に脱衣所を占領してしまったことに罪悪感を覚えていると、平気だと利香が取り繕ってくれる。
「寝間着ありがとう」
「どう致しまして」
悠馬は丁寧に畳んだ状態の寝間着を利香に手渡す。
利香は寝間着を受け取ると、じぃーっと見つめ続ける。
「ごめん、汚しちゃってるかもしれないから、ちゃんと洗濯した方がいいかも」
「そんなの勿体ないよ!」
「勿体ない?」
そこで、はっとした表情御見せた利香は、ぶんぶんと手を横に振る。
「なんでもない、なんでもない。こっちの話。あははははっ……」
何だか凄く焦っているように見えたけど、あんまり深堀りして欲しくなさそうにしていたので、悠馬は喉の奥に言葉を呑み込んだ。
部屋に戻り、悠馬はカバンを手に取って、そのままの足で玄関へと向かう。
ローファーを履き、つま先をトントンと地面に付けながらかかとを入れ込む。
両足履き終えてから、悠馬は玄関の扉を開く。
空は青空が広がっており、乾燥した冷たい空気が突き刺さる。
利香の家に来た時とは違い、周りの状況がよくわかり、外廊下は建物に囲まれていて、誰かに見られるという心配はなさそうだ。
「お待たせー」
外の様子を眺めていると、靴を履き終えた利香が外廊下へと出て来る。
悠馬は改めて利香に向き直り、軽く頭を下げた。
「今日は泊めてくれて本当にありがとね」
「どう致しまして。ちなみに西野君、今日もバイト入ってるって言ってたよね?」
「えっ? うん、今は繁忙期だから人が足りないから、大体毎日入ってるかな」
「私も今日の夜バイトの日だから、約束はちゃんと守ってね」
「約束?」
悠馬が首を傾げると、利香が憤慨した様子で頬を膨らませた。
「忘れちゃったの⁉ 昨日約束してくれたじゃん。夜道は危ないからアルバイトが被った日は家まで送ってくれるって!」
「えっ……」
そんな約束したっけ?
もちろん、利香がこれからも悠馬と一緒に合うための口実をでっち上げただけなのだが、悠馬は利香の家にお邪魔してからの出来事が濃すぎて、あまり昨日会話した内容を覚えていなかった。
「だからバイト終わりの夜。22時30分に大崎駅の改札前で待ち合わせね♪」
「わ、分かった……」
昨日約束してしまったのなら仕方がない。
利香を家までしっかり送り届けてあげることにしよう。
「それじゃ、行こうか!」
まんまと悠馬を騙すような形で次の約束を取り付けることに成功して、利香は浮足立った気分で外廊下を歩いていく。
悠馬は利香の口車に乗せられる形で、バイト終わりに彼女を家まで送り届けることになってしまった。
とはいえ、夜道は危ないので、悠馬が利香のガードマンとして選ばれたということであるなら光栄なことである。
しかし、この時の悠馬は大切なことを失念していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。