第13話 誤タップ

 ブーッ、ブーッ。

 悠馬はスマホのバイブレーションの振動で目を覚ました。

 枕元に置いてあるスマホへ手を伸ばして、頭上へと持ってくる。

 画面に目を向けると、姉である寧々ねねからの着信だった。

 悠馬はポチっと通話ボタンを押してから、スマホを耳元と持っていく。


「んだよ姉貴……まだ朝だろ」


 間延びした声で電話に出ると、寧々から鋭い返しが帰って来る。


『悠馬!? 今アンタどこにいるの!?』

「んぁ?」


 悠馬が気のない声を上げると、寧々がさらに畳みかけてくる。


『今どこにいるのか聞いてるの! 学校から連絡が来て、【悠馬君が登校して来てません】って言われたんだからね!』

「……えっ」


 そこでようやく、悠馬は寝ぼけていた頭が一気に目覚めた。


(そうだ俺……始発で家に帰ろうと思って、そのまま吉川さんの家で――)


 慌てて飛び起きようとして、悠馬はガンっと思い切りロフトの天井に頭をぶつけてしまう。


「痛ってぇ……」


 強烈な痛みが訪れ、悠馬は頭を手で抱えてしまう。

 痛みが引いてきたところで、悠馬は隣で寝ているはずの利香の方へ視線を向けた。

 しかし、布団は敷かれたまま残っているだけで、利香の姿は見受けられない。


「ふへぇ……悠馬くーん♪」


 その時だ、不意に悠馬の肩口からふわふわとした声が聞こえてきたのは。

 悠馬は恐る恐るちらっと布団を捲り上げると、そこには幸せそうな表情でうたた寝をする利香の姿があるではないか。


「ちょ、えっ⁉」


 状況が呑み込めず、悠馬は驚きの声を上げてしまう。

 悠馬の声が大きかったからか、利香がモゾモゾッと身じろぎをする。


「んーっ……ほぇ?」


 目を覚ました利香が、悠馬の胸元に手を置きながら、細い目でこちらを見つめてくる。


「お、おはよう吉川さん……」


 悠馬が挨拶を交わすと、しばし見つめ合いながら無言の沈黙の時間が流れる。


「どっ!? なっ……!? なぁ⁉」


 すると、利香が見る見るうちに顔を真っ赤にさせて、目をぐるぐると回して混乱していた。


『ちょっと悠馬!? 今女の声が聞こえなかった!? アンタもしかしてそういう感じなワケ!?』

「姉貴、ちょっと黙っててくれ!」


 悠馬は慌てて寧々との通話を切ろうと通話終了ボタンを押そうとしたのだが、目測を誤り、通話終了ボタンではなくテレビ通話ボタンをタップしてしまった。

 刹那、画面に寝間着姿の寧々の姿と、悠馬と利香が密着する姿がスマホの通話画面に映し出されてしまう。

 画面越しに映る悠馬と利香が添い寝している姿を目撃した寧々は、驚きの余り目を見開いたかと思うと、ニヤニヤとした笑みを浮かべてくる。


『あっ、ごめーん。私なんかお邪魔しちゃったみたいだね。お母さんとお父さんには内緒にしておくから。楽しんでー』

「誤解だぁぁぁあー!!!!」


 悠馬が咄嗟に声を上げるものの、寧々は盛大な勘違いをしたまま通話を切ってしまった。

 スマホの画面は、寧々とのトーク画面に戻ってしまう。


「なんでこんなことに……」


 悠馬は絶望のあまり腕をだらんとおろして脱力してしまう。


「どっ……ににににに西野君!?」


 とそこで、悠馬の胸元に埋まったまま混乱状態の利香の存在を思い出す。

 ひとまず今は、利香を落ち着かせることが最優先だろう。


「落ち着いて吉川さん。とりあえず、いったん離れてくれると助かる」

「う、うん……分かった」


 ゴンッ。

 利香が起き上がろうとすると、ゴンっと天井に頭をぶつけて、頭を両手で抱えてしまう。

 まるで、お笑いコントを見ているかのようなデジャビューである。


「っーっ!!!」


 頭を抱えて悶絶する利香を目の当たりにして、悠馬は逆に冷静さを取り戻した。


「とりあえず、色々聞きたいことはあるけど、まずは学校へ行く準備をしよっか」


 そう言って、悠馬は利香へスマホで時刻を見せる。


「えっ、嘘!?」


 スマホが示している時刻は9時15分。

 既に一限の授業話終わりを告げようとしている時間だ。


「とにかく、急いで支度を整えよう」

「うん、そうだね!」


 悠馬と利香は急いで学校へ行く支度を整えていく。


 その際の出来事である――


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