第8話 これヤバいかも……
「はぁ……はぁ……はぁ……危なかった」
脱衣所を後にした利香は、放心状態で脱衣所の扉に背中を預けながら、荒い呼吸を繰り返していた。
「まさか、西野君の下着を見ちゃうなんて……」
お風呂に入っている時点で、下着も脱ぐのが当たり前なのだけれど、利香は失念していた。
そして、悠馬が気を使って制服の下に隠していたとも知らずに、彼の下着に触れてしまったのである。
「それにしても、あの中に、西野君のが収まってるんだよね……」
先ほど目にした横縞のトランクスを思い返してしまい、ついそんな独り言を漏らしてしまう利香。
「って、何考えてるの私⁉ ダメダメ。今日は普通に泊って行ってもらうだけなんだから!」
首をぶんぶんと横に振り、邪な考えを振り払う利香。
部屋に戻り、利香は手に持っていた制服を広げて、消臭スプレーをシュッ、シュッと振りかけて、臭いを取ってあげる。
まんべんなくスプレーをかけ終えて、制服をハンガーにかける前に一応匂いをチェック。
消臭剤の爽やかな香りに交じって、取れることのない悠馬の匂いが利香の鼻孔を刺激する。
「うわっ……これやばぁ……」
一気に幸せホルモンが分泌され、利香の頭の中がふわーっと昇天するような感覚に陥った。
利香は咄嗟に、脱衣所の方へ視線を向ける。
まだシャワーの水音が聞こえてきており、悠馬が上がってくるまで、時間はあるはず。
利香は改めて、悠馬が身に付けていた制服へと目を向ける。
「ちょっとだけなら、いいよね?」
利香は自分に言い聞かせるようにして、内なる欲望のまま、そっち鼻先を悠馬の制服へと押し当てた。
そして、思い切り息を吸い込むと、利香の身体全体が悠馬の匂いで包み込まれる。
「はぁっ……スゥッー……ヤッバ……これ嵌っちゃうかも」
気づけば、制服の頬擦りしながら、かすかに残る悠馬の温もりまでも堪能してしまっていた。
こんな姿、見られたらドン引きされるって分かっているのに、もう止めることが出来ない。
「西野君……好き……好きぃ……匂いヤバいよぉー!」
利香はそんな独り言を漏らしながら、しばし一人で至福の時間を堪能するのであった。
◇◇◇
悠馬は手短にシャワーを済ませ、脱衣所へと上がった。
用意してもらったバスタオルで身体を拭いてから、利香の彼氏のものと思われる寝間着へと袖を通す。
体格が同じぐらいなのか、悠馬の身体にとてもフィットした。
ドライヤーで髪を乾かしてから、先ほどこたつが置いてあったロフト付きの部屋へと戻っていく。
「ありがとう。さっぱりできたよ! って、どうしたの? 息荒いけど?」
悠馬が部屋から戻ると、なぜか利香はぜぇ……ぜぇと運動をしていたかのように肩で息をしていた。
「ううん。何でもない! さっぱり出来たならよかったよ!」
利香は手を振って笑みを浮かべる。
掃除でもしていたのかなと思い、それ以上深堀りはないことにする悠馬。
(危なかったぁー! ドライヤーの音が聞こえてなきゃ人生詰むところだったよ)
幸いなことに、悠馬は気づいておらず、利香はほっと胸を撫でおろした。
悠馬がドライヤーを使い始めて我に返り、自身が没頭していたことに気が付いたのである。
慌てて制服をハンガーに掛けてつるして、自身の火照った身体を沈めていたところに悠馬がやってきたのだ。
「じゃあ、ちょっとこたつで温まってゆっくりしてて。私も入ってきちゃうから」
「えっ⁉ 吉川さんも入るの?」
すると、悠馬が驚いた様子で利香を見つめてくる。
「なんで、私は入っちゃダメ?」
ここは利香の家で、悠馬が入った後にシャワーを浴びるのは当然の流れだと思うのだけれど……。
「そう言う事じゃなくて。それなら俺、一旦外に出てるよ」
どうやら、利香がお風呂に入ることを気遣い、悠馬は部屋から出て行こうと踵を返してしまう。
利香はそこで、悠馬がもう戻ってこないのではないかという焦りと不安を感じてしまった。
部屋を後にしようとする悠馬を制止するように、利香の身体は勝手に動いていた。
悠馬の身体に手を回すようにして、後ろから抱き着いてしまったのである。
その利香の行動に対して、悠馬は――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。