第7話 扉越しでの会話
タバコ臭を放ち続けている訳にもいかないため、悠馬はひとまず制服を脱いでシャワーを借りることにする。
浴槽へと続く扉を開いて、悠馬は風呂の中へと入っていく。
お風呂場は、そこまで広くなく、人一人がやっと入れるぐらいの大きさだった。
備え付けてある棚には、女性用のシャンプーやボディーソープと思われるものが揃えてられている。
「ここが……利香のお風呂場」
頭の中で邪なことを考えてしまい、無意識にごくりと生唾を呑み込んでしまう悠馬。
無音で佇むのはまずいと思い、邪念をかき消すようにしてカランを回してシャワーを出した。
「大丈夫。私なら出来る!」
一方で、扉を一枚挟んだ廊下で心を落ち着かせた利香は、自分に気合を入れるように独り言を呟いてから、意を決して脱衣所の扉を開いた。
脱衣所に悠馬の姿はなく、床に丁寧に畳まれた状態で先ほどまで身に付けていた制服が置かれているだけ。
そして、視線をお風呂の方へと向ければ、ドア越しに肌色のシルエットが利香の視界に映り込む。
思わず利香は、ごくりと生唾を飲み込んでしまう。
(西野君の裸姿……。
西野君の裸姿……。
西野君の裸姿……。)
はっと我に返り、利香はぶんぶんと首を横に振る。
(何考えてるの私! まるで変態みたいじゃない!)
利香は何事もなかったかのように、悠馬の制服に手を掛ける。
シャワー音が聞こえる中、お風呂場にいる悠馬へ声を掛けた。
「に、西野君」
「ひゃ、ひゃい!?」
その時、扉を挟んだ向かい側、つまりは脱衣所の方から利香に声を掛けられた。
いきなりの出来事に、悠馬は変な声を上げてしまう。
シャワーの音でぼかしてはいるけれど、扉一枚挟んだ状態でクラスメイトの女の子と話すという状況は色々とまずい。
悠馬の身体全身が警戒を鳴らしている。
「ど、どうしたの吉川さん!?」
「ボディーソープとかシャンプーどれか分かる?」
「あぁうん! 書いてあるから分かると思うよ」
「ならよかった。ハンドタオル用意するの忘れちゃったからここに置いておくね。それから、洗濯機の上にバスタオルとドライヤーも置いておいたから、上がったら使ってね」
「な、なにからなにまでごめんね」
「平気だよー! それじゃあ私は制服を消臭しておくから、西野君はゆっくり温まってね」
「うん、ありがとう」
悠馬の緊張感はマックスに達している中、利香も扉越しで会話をするのに限界を感じていた。
洗面所の棚から、ドライヤーとバスタオルを取り出して洗濯機の上に置き、床に畳まれた状態で置いてある悠馬の制服をクレーンゲームのアームで掬い上げるようにして手に抱えて回収する。
利香が脱衣所を後にしようとした時、ひらひらと利香の手から何かが滑り落ちていく。
床へ落ちてしまったものへ視線を向ければ、なんとそれは悠馬の下着(パンツ)だった。
横縞模様の入った緑色のトランクス。
どうやら、制服の下に隠していたらしい。
利香が制服を拾い上げた際に落っこちたのだろう。
「なっ……⁉」
しかし、悠馬の下着を見た瞬間、利香は思わず息を止めてしまった。
(下着が落ちて来たということは、制服を拾い上げた際に利香の手に触れたということで……)
「⁉⁉⁉」
利香は大声を出しかけてしまったけれど、すんでのところで堪えた。
顔がぶわっと熱を帯びていくのを感じながら、利香はくるりと踵を返して脱衣所を後にする。
利香がバタンと脱衣所の扉が閉めて出て行ったところで、悠馬はほっと息を吐いた。
「び、びっくりしたぁ……」
別にやましいことをしていたわけではないけれど、衣服を身に付けていない状態で気になっている女の子と話をするのは凄くドキドキしてしまい、今もなお悠馬の心臓はバクバクと脈を打っている。
「とりあえず、身体洗うか……」
変なことを意識してしまう前に、悠馬はちゃちゃっと身体を洗ってシャワーを済ませることに努めることにした。
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