第20話 別に、いいかな
さて、今日は夏休みに行くプールのために、水着を買いに来た。もちろん、お姉ちゃんと二人でだ。
先輩も誘おうかと、迷ったけど……
『た、たっくんに見られるのは、その……恥ずかしい、から』
とお姉ちゃんが言うので、二人だけだ。
どうせプールで見られるのに、試着段階で恥ずかしがるなんて……
まあでも、事前にこういう水着だと教えておくよりも、プールでのお楽しみに取っておいた方がいいのかもしれない。
「うわぁ、人多いねぇ」
「休日だし、夏休み直前だしね」
近くのデパートの、水着売り場。そこに来たわけだけど、いやあ人が多い。
それもそのはず。今は夏……海やプールシーズン真っ最中だ。なので、水着を求める人は多い。
それに、今日は休日だ。なので、アタシたちと同じく学生と思う女子たちが多い。
「でも驚いたなぁ。お姉ちゃんから、水着を買いに行きたいって言われるなんて」
「そ、それは……」
今日ここに来たのは、お姉ちゃんが水着を買いに来たいと申し出たからだ。
もちろん、お姉ちゃんが言わなくてもアタシから言い出すつもりではいたけど。
先輩とは、三人でプールに行こうという話はしていた。それが原因なのは、すぐにわかった。
「去年と同じのじゃ、ダメなんだ?」
「ダメ、ってわけじゃないけど……か、彼女になって初めての、水着だから。可愛いの、つけたいなって」
「……そっか」
去年も、先輩とはプールに行っている。そのときの水着が入らなくなった、というわけではないだろう。
でも、今年は今年で、新しく買いたい。いや、今年だからって理由じゃない。
お姉ちゃんには、新しく買った水着を見せたい、彼氏ができた。
たとえ何度も水着を見せ合っている相手ではあっても、関係性が変われば心持ちも変わる。
そういう意味で言えば……別に、彼氏ができたわけでもないアタシは、新しくm図儀を買う必要なんてない。体型だって、変わっていないのだから。
なのに、なんでアタシは……
「お姉ちゃんは、か、れ、しの先輩に、かわいいと思ってもらいたいもんねー」
「も、もう
「……」
そうだ、アタシはなにを……やっているんだろう。
別に、見せたい相手なんて……いない。なら、わざわざ水着を買う必要も、ない。
持ち上がっていたテンションが、下がっていくのを感じる。
「じゃ、さっそく選ぼうよお姉ちゃん。かわいいのをさ」
「う、うん。……ん、左希は?」
水着コーナーへと足を進めていると、お姉ちゃんが驚いたようにアタシを見ていた。
あぁ……今の言い方じゃ、アタシが自分のを買わないと白状したようなものか。
「アタシは……別に、いいかな」
「え、なんで!」
お姉ちゃんはアタシの肩を持って、体を揺さぶる。
「なんでって……別に、去年と体型も変わってないし、新しく買う必要もないかなって。もったいないし」
「そんな……でも、プールなんて一年に何回も行けるものじゃないんだよ? 着る回数は少ないかもだけど、だからこそかわいいのを着たいんじゃない。
それに、たっくんに新しいの見せたくない?」
……お姉ちゃんは、本当に……
考えていることが、まるでわからないよ。アタシがかわいい水着を着て、先輩がアタシに心変わりするかもとか、考えないんだ?
ていうか、なんでここで先輩の話が出てくるのさ。
『その……す、好き、なのかな、とか……い、異性として』
『あの……私、ね。明日。たっくんに告白しようと思うの』
『……いいの?』
……もしかして、お姉ちゃんは……
「お姉ちゃんは……」
「ん?」
「……なんでもない」
こんなこと、言ったってなんにもならない。
ていうか、別にいいじゃん。アタシのことなんだから。なんでお姉ちゃんがそんな……
「なんで、必死になってるのさ」
「え」
「あ……」
しまった、考えていたことがつい口に出ちゃった。
これじゃまるで……一人で勝手に拗ねて、お姉ちゃんに当たっているだけじゃないか。まるでっていうか、実際にそうだけど。
だけど、お姉ちゃんは嫌な顔一つすることなく。
「それは……私も、左希の新しい水着を見たいから、かな」
「!」
「確かに、体型は変わってないし新しいの買う必要はないのかもしれないけど……今年は今年の、今年しかないかわいい水着だってあるんだよ。私は、かわいい左希が見たい。
それに、せっかく高校生になったんだよ。ちょっと、大人っぽいの着てみない?」
……お姉ちゃんは、ずるい。そんなことを言われたら、断れないじゃないか。
「……お姉ちゃんって、シスコンだよね」
「えっ。そ、そうかなぁ」
なんでそこで照れるんだ。
もう、なんかいろいろ考えていたのが、バカらしくなっちゃったな。
……よし、決めた。
この夏休みの間に、お姉ちゃんと先輩の仲を進展させよう。
未だに手も繋いだこともないって言うのは、さすがに……ね。
元々、お姉ちゃんとそういうことができるように、アタシと"練習"しているんだから。
せっかく、アタシが体を張っているんだ。少しは成果をあげてくれないと、困る。
「じゃ、水着選ぼう!」
「わ、わかったよ」
アタシは、アタシの気持ちがわからない。自分がどうしたいのかも、もうわからない。
だったら……好きな人、いや好きだった人のために、身を削ろう。
それが、アタシの幸せになるはずだから。
「……いっそ、からかってやろうかな」
アタシは、ぼそっと呟いた。
どうせ、新しく水着を買うんだ。だったら、先輩のことをうんとからかってやる。
アタシをこんな気持ちにさせた、バツだ。
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