骸骨勇者2


「ぎゃっ!? い、いてえよ!? は、離れろよ!」

「くそ、悪夢じゃねえかよ! 連撃で倒すぞ!」

「ボスを狙え! マツコ先生をぶっ倒せば終わりだ!」


 俺達よりもマツコ先生に近い場所にいた大勢の生徒達がマツコ先生に襲いかかる。

 冒険者のバイトをしているのか、練度が高い生徒であった。


 だが、骸骨先生が視線を送るだけで――

 生徒たちがチリと化した。


 残りの生徒たちが慌てふためく。


「ま、マジかよ……、閃光のハヤト君が一撃だと……お、終わりだ……」

「おい、逃げろって! こんなの無理ゲーだぞ!」

「こ、怖いよ……、ママ、助けて……」


 無数の骸骨たちは無慈悲に力の無い生徒たちに襲いかかろうとする――



 青白い炎が見えた。


「――【聖炎】」


 リオが大きなスタッフで地面を突く。

 一拍置いて、青白い炎がリオを中心に円を描くように燃え広がり、一瞬で骸骨を消滅させてしまった。



 安堵する生徒たちをよそに、骸骨は地面から再び生えてきた。

 その速度は先程よりも遅い。


「な、なんだあの魔法……、せ、聖女様と同じ……」

「死ぬかと思った……」

「被害やばいって!? こ、これが本当に本選なの!? ひぃ……せ、先生が――」


 俺は慌てふためく生徒を無視して骸骨先生に迫る。


 修練所の空間に漂う魔力の質が変わってきた。

 通常は動画魔法で小さな魔力玉が浮かんでいるが、それが見当たらない。この戦いを見せたくないのか? 確かに、あんな召喚術を他の国に知られたら大問題だが……。


 なにせ、マツコ先生に憑依しているのは勇者だ。勇者は代々帝国や超大国からしか現れたことがなかった。王国が勇者を召喚したなんて知られたら――


「きしし、お、お前がほ、本命だね……、ぶ、ぶっ殺す……」


 これはただの授業の一貫のはずだ。マツコ先生は禍々しい大剣を身構えた。

 呪いが付与されているそれは、掠るだけで重篤な状態異常を引き起こす。


 ……ここに残っている生徒は俺達以外に数人しかいない。

 だったら実力を隠す必要ない――


「――武器召喚【聖槍】」


 この世界には存在しない武器。いままではその力を引き出せなかったが今は違う。


 奴隷時代の脱獄を思い出す。

 骸骨王が俺たち奴隷を足止めしなかったら、みんな無事で逃げ切れたのに――


 俺は槍を骸骨先生に向かって投げつけた――

 非常にゆっくりとした速度だが、必中の一撃。


「――【俊足】」


 高位闇魔法で槍を消滅させようとする骸骨先生の懐に潜り込んだ。


「きし? く、空間転移? は、反則――」


「――はぁぁぁっ!! ――【崩壊】」


 アンデット系は魔法も物理も効きづらい、気の力や聖なる力が一番効果的だ。

 手のひらに溜め込んだ気の力とアカネの聖なる魔力をミックスさせて、微振動を起こす。

 物質を崩壊させるレンのスキルはまだうまく使えないが、あいつの技とサイオンジさんの技を組み合わせる。


 骸骨先生はとっさに俺の崩壊へと魔力障壁を合わせた。

 SSSランクの魔法師を軽く超えるその強固な魔力障壁は粉々に砕け散った。


 骸骨のくぼんだ目が一瞬だけ驚きの感情が見えた。

 先生は俺から距離を取ろうとしたその時――


「はっ!!!」


 カケルが先生を殴りつけた。

 ただの物理攻撃のそれは、尋常ではない威力であった。

 全く気配を感じさせなかったその一撃は不可避の攻撃。

 先生の鎧が半壊するほどの威力であった。


 ――い、いや、その威力はおかしいだろ? 俺が言うのもあれだが……


 だが、先生も吹き飛ばされながらもカケルへ向けて魔眼を放つ。

 俺はすでに【俊足】でカケルの前に立っていた。


 ――こんな魔眼、学園長に比べたら遊びみたいなものだ。


 魔眼の力が俺の身体に侵食しようとするが、俺は魔力を高めて蒸発させる。


「――助かる、俺は魔眼の耐性がなかった」


 そう言いながら、マツコ先生との間合いを一瞬で詰めて、大きく放った回し蹴りが骸骨の脳天に突き刺さる。勇者の兜が砕け散った。

 俺は突き刺さった箇所から這い出る高位呪いの魔法を【光炎】で焼き払う。


 マツコ先生は痛みを感じないのか、頭が砕けても構わず巨大な大剣を振り回した。

 距離があるのに、その攻撃は魔法陣を通して遠隔攻撃となる。

 地面から這いずる呪いが俺の動きを封じる。


 俺は迫りくる剣を無視して氷帝スキルで呪いを凍らした。

 盾を召喚して大剣を防ごうとしたその時、大剣は俺の目の前で砕け散った。


 カケルの拳が大気を揺らしていた――

 ただの物理攻撃で勇者が持っていた剣を破壊するとは……。


「……その物理攻撃は冗談の類か?」


 俺の言葉に返すように骸骨先生の腹へとアッパーカットを繰り出すカケル。

 空高く舞い上がったところで、俺が発動していた【聖槍】が骸骨先生の胸へと突き刺さった。


「き、しし!? 障壁がががががが――」


 マツコ先生はそのまま壁にぶち当たり串刺しになる。


「ふむ、君の武器ほど万能ではないが、俺は筋力に自分の命を預けた男だ」


 カケルの連打でマツコ先生は弾けるように砕け散った――





 ******************




「お、おい、俺達助かったのか?」

「あ、ああ、これって選抜を決める試合で良かったんだよな?」

「やりすぎだよ。私抗議するわ」

「あいつら化け物だよな……、 っていうか、対抗戦って他校も化け物揃いだったの忘れてた……」


 マツコ先生が砕け散るとと、リオたちが戦っていた雑魚骸骨たちも動きを止めた――

 骸骨が崩れない? 動きを止めただけ?



「きししし、ゆ、勇者のアンデットだから……、ね、に、二段階目の覚醒……あるし」


 壊れた骸骨の頭だけが浮かび上がって俺達に告げた。

 そして、周りにいた骸骨たちが集まって山となり――



 マツコ先生は復活した。

 それもさっきよりも魔力が増えている。雑魚骸骨の力を吸収したんだろう。


 リオたちを見ると、息も切らしていなかった。リオの力は明らかに学生レベルじゃない。

 こちら側の人間であった。





 **************




 ――私、マシマエリは状況についてくのがやっとであった。


「セイヤ君! 私も加勢するよ! 【聖炎付加】――、マシマさんはマジックバリア主体で魔法を防いで! 姫は今度はサポートに周って! メルティさんは全員に隠蔽魔法で攻撃を当たりにくくしつつ、解呪魔法をかけてね!」


「ひぃぃぃ!? し、処女のまま死にたくないしょ!!」

「ば、馬鹿! 真面目にやってよ! 不敬罪で牢屋に入れるわよ!」



 騎士団長の娘なのに物理攻撃はからっきし駄目、攻撃魔法もうまく使えない。

 できるのは大盾で守る事しかできなかった。


「マシマさん! 骨が飛んで来るから【シールド】をお願い!」


 リオは自分が強いだけではなく、コマンダーとしての才能もあった。

 的確な指示により私たちが能力以上の力の発揮できる。


 私は馬鹿だ。

 素直になれなかった子供時代。悔やんでも弱い自分は高等部になっても自分を変えられなかった。

 そんな私は変わりたかった。


「――っく、【シールド】!!」


 みんなの前に出て、迫りくる無数の鋭い骨をシールドで守る。

 骨が当たる衝撃で私のHPを削り取る。

 だが、私は守ることしかできない――


 ならもっと馬鹿になればいい。愚直に守ることだけを考えればいい。

 もう待っているのはゴメンだ。後悔なんてしたくない。


 セイヤがパワーアップした骸骨王と激しい戦いを繰り広げていた。

 致死の呪いの攻撃を躱しつつも、決定打を打つチャンスがない。


 私の後ろにいる他のクラスの生徒たちの呟きが聞こえる


「こ、こいつ俺達も守ってくれてるのか?」

「た、ただのコネで選抜に選ばれたヤツじゃなかったのかよ」

「すげえ……、盾の強度が半端ねえ……」


 もう昔の私じゃない。騎士団に入る憧れなんて捨てた。

 お父さんの言いなりになるのはやめだ。


『落ちぶれた下級貴族など放っておけ! お前は自分の立場をわかっているのか? 馴れ合いなど必要ない。お前は騎士団長を継ぐのだ――』


 わたしは……もう、迷わない。

 セイヤ、あの時守れなかった私は消え去ったんだ――



「――はぁぁぁぁ!! 【ヘイト】【ハードブロック】【マジックブロック】【バラード】!!」


「マシマさん!? そ、それだと身体に負荷が――、いえ、セイヤ君にチャンス――、うん、お願い!」


 骸骨王の攻撃が全て私へと向けられる。

 嵐のような骨がシールドを削り取る――

 致死の魔眼がマジックバリアを一瞬で破壊する――

 それでも――私は――


「へ? か、回避盾!? ちょ、超上級者スキルじゃん!! マシマやるじゃん!」


 メルティがそう言いながらも私に素早さ向上の補助魔法をかけてくれる。


 全ての攻撃を躱すなんて不可能。無数の骨と呪いが私の身体を蝕む。でも、私は――

 霞んできた目でセイヤの姿がみえた。

 セイヤは私を見て頷いてくれた気がした。

 微笑んでくれたかも知れない。気のせいかも知れない。


 薄れゆく意識の中で――私は――

 自分の本当の気持ちに気がついた。


 私は……、セイヤの事が大好きだったんだ……。何も行動出来ない自分が大嫌いだったんだ――


 本当に私は馬鹿だ。


 優しいセイヤはひどい事をした私と話してくれる。

 話してくれるたびに嬉しさと罪悪感が浮かび上がる。


 この想いは胸にしまい込む。罪を犯した私に恋をする資格なんてない。


 それでも、骸骨王に迫るセイヤの姿がひどく愛しくて……。

 身体に襲いかかる激痛よりも、胸の痛みのほうが苦しい――


 セイヤの形が奇妙な武器が骸骨王の身体を再び打ち砕いたのを見て、私の意識は暗闇に包まれた――






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