骸骨勇者


 午後になると、予選を勝ち抜いた生徒達がナンバーズの修練所に集まった。

 正直知らない生徒が多いと居場所に困る。

 和気あいあいとグループで話している姿を見ると疎外感を感じる。


「セイヤ君、どうしたの? 終わったらおうちで打ち上げしようね!」


 だけど、リオが話しかけてくれるとそんな疎外感は消え去ってしまった。

 リオは決勝を楽しみにしていた。どんな競技であれ、仲間と一緒に行動できるのが嬉しいらしい。


「ああ、どうせならあいつは倒したいな」


 視線の先にはカケルがいた。

 カケルは一人で水晶通信をいじっていたが、感情は無であった。


「ちょ、マジ緊張なんだけど……、わ、私いらなくない? 緊張でトイレ行きたい……」


 メルティが苦しそうにお腹を押さえていたが、マシマが補助魔法をかける。


「――これで大丈夫だ。メルティは隠密スキルが有能な人材だ。お互い頑張って生き残ろうな!」


「うぅ、余計な真似しちゃって……、棄権したかったのに……」


 姫は不思議そうに周りを見渡している。


「……予選みたいにみんなで戦うのかな? 収集つかなくなりそう……」


 他の生徒たちも似たような事を話している。


「ていうか、本選って何やんの?」

「トーナメントだと思ったのによ」

「選抜で五人だっけ? 魔力順でいいじゃねえか」

「まあまあ、バトルロイヤルだったら雑魚から駆逐すれば……」

「あっ、サトシ先生とマツコ先生だよ!」


 サトシがナンバースリーであるマツコ先生を引き連れて修練所へとやってきた。

 生徒たちは無言になり、サトシの言葉を待っていた。


「揃ったようだな。……これからお前らには仮想の敵と戦ってもらう。選抜メンバーは戦いぶりを見て決める。この場で全員リタイアしたとしても戦いの内容によって選抜メンバーを決定する」


 ナンバースリーであるマツコ先生はさっきから詠唱をしている。

 大柄な彼女は戦闘が得意と思われがちだが、本分は召喚術師である。


 一対一よりも一対多の戦いを得意とする召喚術師。


 もちろん彼女もあの場所で何度も出会った。

 あいつの召喚された魔物と何度戦ったことか……。

 スミレ先生よりもマッドな気質が強い。


「きしし……、しょ、召喚、するけど、準備、いい? きしし、すぐに死なないでね……」


 気色悪い笑い声を上げるマツコ先生だが、召喚する魔物が可愛いと王国内のマニアには人気が高い。

 いつの間にかサトシが消えていた。


 生徒たちは召喚される魔物が相手だと思って、気を抜いている。

 マツコ先生の魔力が高まると、大きな魔法陣が発動した。


 カケルを見ると水晶通信をしまって若干の焦りの表情が見えた。周りを見渡してサトシを探しているようであった。

 そして、大声で周りに呼びかけていた――


「逃げるんだ!! これは召喚失敗である! 予定の魔物はただのランクA魔物のレッサードラゴンの予定であった!! こいつは――」


「え、レッサードラゴンなら人数で囲めば勝てるじゃん」

「ああ、楽勝ではないけどな」

「ていうか、あいつ何言ってんの? ダサ」

「陰キャは黙ってろよ」


 周りの生徒たちは誰も耳を貸さなかった。

 俺達は不測の事態に備えるために戦闘態勢に入る。


 ――鳥肌が立ってきた。


「――これは」


 ここまで大きな召喚術式を見たことがない。

 今まで俺が相手にしてきた一番大きな魔物が神話級のケロベロスだ。

 あの時は奴隷仲間がいたからどうにかなったが――




 魔法陣がバチバチと火花を上げる。

 マツコ先生が恍惚の表情になり――何かが乗り移った――。

 恐ろしく邪悪な気配。


 マツコ先生の姿が変わり、そこには得体の知れない何かが存在していた。

 得体の知れない何かがマツコ先生とは全く違う声色で喋り始めた。


「……きしし……、憑依完了ね――、せ、戦闘を開始してもいいかしら? ひ、久しぶりの本気だから、ち、力が抑えきれないわ……」


 骸骨の騎士に似た姿に変わったマツコ先生から感じる恐ろしい力――


 俺はあれを見たことがあった。

 奴隷時代、不完全な姿だったけど、死のゲームの最中に襲いかかってきた骸骨。

 俺達が倒しきれなかった相手だ。


「――神話級を超える黄昏級の魔物だ。アンデットの最上位の骸骨王だ。勇者のなれの果て――」


 俺がそう言うと同時に、マツコ先生は金切り声をあげた。

 精神が削り取られるような叫び。


「――――――――――――ッ!!!」


 それだけで大半の生徒が地面に倒れ付してしまった。

 俺はとっさに大きな魔法障壁を作ったから、後ろにいたリオたちに影響は無い。

 叫び声に呼応して地面の中から骸骨が生まれ落ちる。

 一匹一匹のランクは低いが数が多い。


「や、やばくない!? 骸骨きもいって!!」

「ど、どうすればいいのだ? わ、私は守る事しかできんぞ!」

「マシマ! 偉そうに言わないの! せ、生徒が半数も倒れているけど、あ、あいつと戦わなきゃいけないんでしょ?」


 リオが懐からバトルスタッフを取り出した。

 切っ先が斧のようになっている鈍器タイプの武器だ。


「――セイヤ、骸骨先生をお願い、私たちで雑魚を蹴散らしてから合流する! マシマさん、前衛盾役をお願い! 私と姫がアタッカーを務めるよ! メルティさんは隠蔽スキルと回復役をお願い!」


 リオの魔力の籠もった冷静な声で正気を取り戻すマシマ達。

 あの声には恐慌状態に陥るスキルが付与されていた。


 その時、サトシの声が空間に響く――


『それでは最終戦の開始だ。各自全力を尽くしてくれ』


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