#15 父ユウ・シャノチーチ


 あのオーラのせいで魔法も物理攻撃もユウ・シャノチーチには当てられない……

 それならどうやって倒せばいいんだ……

 どこかに隙があるはず……


「さて、それではまた貴様らに苦しみを与えるとしよう」

 ユウ・シャノチーチは紫色のオーラに覆われる。

 そのオーラはユウ・シャノチーチの体を離れ浮き上がる。


 その紫色の光はユ・ウジンナシに向かって飛んでいく。

 ユ・ウジンナシは紫色の光に包まれ、大声を上げながら苦しんだ。

「ユ・ウジンナシ!」



 くそ……どこに隙がある……

 どこに……



 ケンジャノッチはユウ・シャノチーチの攻撃を思い返した。



 あ……ここだ……!



 紫色の光は消え、ユ・ウジンナシは床に手をついた。

「ユ・ウジンナシ!」

 ウラギールはユ・ウジンナシに近づいた。

「くくくく……どうだその苦しみは?」

 ユウ・シャノチーチは玉座に腰かけて笑う。

 ウラギールは回復魔法を唱えた。


 ケンジャノッチが口を開く。

「この程度の苦しみがなんだ。僕たちはどんな苦しみだって耐えてみせる」

「ほほう、いい度胸じゃないか? いつまでそんなことを言っていられるか楽しみだな」

 ユウ・シャノチーチはニヤリと笑う

「それならばもういちど超魔道ギリシナヌを受けるがいい」


 ユウ・シャノチーチは再び巨大な紫色のオーラをまとった。また電気が走ったような痛みがする。

「死なないように祈るがいい」

 巨大な紫色の光はユウ・シャノチーチを離れ、巨大な不死鳥となった。

「ここだ!」

 ケンジャノッチは走り出した。オーラがユウ・シャノチーチから離れたこのタイミングなら斬れる。


 しかし、ケンジャノッチが剣を振るより早く紫の不死鳥はまたユウ・シャノチーチのもとに舞い戻った。ケンジャノッチはその紫色のオーラに巻き込まれ、苦しみに襲われた。ユウ・シャノチーチはケンジャノッチを蹴り飛ばした。ケンジャノッチはユ・ウジンナシとウラギールの元へ飛んで行った。

「ケンジャノッチ!」

「ふん、こしゃくなマネを」

 ユウ・シャノチーチは一度オーラを消し、玉座に座る。


「あの瞬間だ……ユウ・シャノチーチからオーラが離れた瞬間なら攻撃をあてられる……!」

 ケンジャノッチはウラギールに言った。

「そっか、そのタイミングなら……」


 ユウ・シャノチーチが声を上げた。

「無駄だなぁ。今のでわかっただろう? 戻ってきた俺のオーラに巻き込まれるのがオチだ」

「いや、無駄じゃない。ユウ・シャノチーチ、お前の闇魔法は一度自分の体から離さなければ発動できない。そうだろう?」

「ほう?」

「つまりだ、僕たち三人がいつでも攻撃できるように構えていれば、お前は闇魔法が発動できない」


 ユウ・シャノチーチは笑った。

「なるほど、それがお前の推理というわけだ。だがお前は間違っている」

「間違ってる? どこが?」

「さあな」


 ケンジャノッチは二人に「あれはハッタリだ」とつぶやいた。

 ケンジャノッチが走り出す。ユウ・シャノチーチは紫色のオーラをまとった。

 ケンジャノッチが走り出したのを合図に、ウラギールとユ・ウジンナシはユウ・シャノチーチを取り囲んだ。

「さあどうするユウ・シャノチーチ? これでお前は魔法を発動できない」

「いいだろう。お前の推理のどこがはずれているのか教えてやる」


 そう言うと・ユウ・シャノチーチは紫色のオーラをまとったままケンジャノッチに向かって走り出した。ケンジャノッチは予想外のことが起きて反応することができなかった。ケンジャノッチはユウ・シャノチーチのまとっているオーラに巻き込まれ苦しみ悶えた。ユウ・シャノチーチはケンジャノッチを殴りながら教えた。

「確かに魔法の発動はお前のいうとおり隙ができてしまう。だがそれは遠距離用の戦い方だ。接近戦であればオーラを身にまとったまま攻撃ができる」


 ウラギールはユウ・シャノチーチの背後から氷のつぶてを放つが、それらは全てオーラに弾かれてしまった。ユ・ウジンナシは短剣というリーチの短い武器のため、そもそもユウ・シャノチーチに近づくことができなかった。


 ユウ・シャノチーチはケンジャノッチを蹴り飛ばすと、ウラギールの方に振り向く。ユウ・シャノチーチは一度オーラを消し、ウラギールの方に歩いていく。

「さあ、次はお前の番だな」

 ユウ・シャノチーチはウラギールとの間合いを詰めた。ユウ・シャノチーチは紫色のオーラを出現させ走り出した。ウラギールはとっさに氷の壁を出現させるが、その壁はすぐにユウ・シャノチーチの拳に破壊され、ウラギールはユウ・シャノチーチのオーラに巻き込まれる。ユウ・シャノチーチはウラギールの首をつかみ持ち上げた。

「どうした? お前らの推理によれば俺を倒せるんじゃなかったのか? うん? まったくたわいないな」

 ユウ・シャノチーチはそのままウラギールをケンジャノッチのいるところに投げた。ユウ・シャノチーチはユ・ウジンナシの方を振り向く。ユ・ウジンナシはガタガタ震え、立つことが困難になっていた。


「ふん、お前は相手するまでもないな」

 ユウ・シャノチーチはユ・ウジンナシを無視してそのまま優雅に玉座に腰かけた。玉座はわずかに紫色に光っている。ユ・ウジンナシは慌ててケンジャノッチとウラギールのいるところまで走っていった。


「ケンジャノッチ、回復魔法を……」

 ウラギールが息も絶え絶えそういうと、ケンジャノッチはウラギールの腕を押えた。

「いや、ダメだ……まだ魔力を温存するんだ……」

 ケンジャノッチは意識が遠のきそうになりながらも必死で考えた。ユウ・シャノチーチの勝てる僅かな可能性を。



 どうすればいい……?

 どうすればユウ・シャノチーチに勝てる?

 ああ、ユ・ウジンナシも近くにいる……

 あれ……? ユ・ウジンナシ……?

 お前ひとつも傷を追ってないのか……?

 ユウ・シャノチーチは永久の苦しみを味わえと言っていた……


 待て……闇魔法は魔力の消耗が激しいはず……

 なぜユウ・シャノチーチはあんなに何度も使うことができる?



「さあどうした、もう降参か?」

 ユウ・シャノチーチは玉座に座りながら声をあげた。

「俺に協力するくらいなら死を選ぶというのであればやむをえん。望み通り死を与えてやってもいい」


 ケンジャノッチは今までの戦いを思い返していた。ユウ・シャノチーチが玉座に腰かけるシーンがいくつも蘇ってくる。



 これだ……!

 僕の洞察が正しければ……!



 ケンジャノッチはなんとか立ち上がり、ウラギールが立ち上がるのに手を貸した。

「ほほう、まだ立ち上がる気力があるとはな。よし、少しだけ猶予をやろう。俺が超魔道ギリシナヌを放つまでにお前らが降参すれば命を助けてやろう。俺とお前たちで協力して国王クロマークを倒そう。それに間に合わなければお前たちには死が訪れるだけだ」

ユウ・シャノチーチは再び巨大な紫色のオーラをまとい始める。また電気が走ったような痛みがする。


 ケンジャノッチはそのままウラギールの腕を握った。

 ケンジャノッチの目は赤く光り、ケンジャノッチの体を赤いオーラが包んだ。

「え?」

 ウラギールが意外そうな声をあげる。

 赤いオーラは大きくなる。


「これ以上やったらケンジャノッチの魔力が」

「僕の魔力は尽きてもいい。僕の魔力は全部ウラギールに託す」

「でも……」

「魔力回復魔法マリョックワーケル」

 赤いオーラがウラギールも包み込んだ。


「ふん、今さら魔力を分けたところでどうなる? その魔力を絞り出してまた壁でもはるか? なるほど、そうすればこの攻撃は耐えられるかもしれないな。だが、俺は何度でもこの魔法を使いお前たちを苦しめる。ここで耐えても、その次の超魔道ギリシナヌで死ぬだけだ」


 ウラギールは魔力を集中しだした。

「やめろ、ウラギール」

 ケンジャノッチはウラギールが魔力を集中するのをとめた。

「魔力は温存するんだ」

「でも、この状態で超魔道ギリシナヌをそのまま受けたら」

「大丈夫、僕たちは死なない」

「でも」

「信じてくれ」


 ケンジャノッチはウラギールとユ・ウジンナシの手を握り、そのまま突っ立っていた。


「おいおい、どうした? 壁をはらないのか?」

 ユウ・シャノチーチが声を上げた。

「ああ、撃てよ、超魔道ギリシナヌを」

 ケンジャノッチは息も絶え絶え、挑発するように言った。

「強がるな。今降参すれば命を助けてやる。これが最後のチャンスだぞ」

「寝言は寝て言え。勝つのは僕たちだ」

「ちっ、ヤケクソになったか……」とユウ・シャノチーチはつぶやいた。


「死が望みだというならくれてやる」

「ぐだぐだ言ってねえで撃てよ、超魔道ギリシナヌを」

 ケンジャノッチは挑発を続けた。

「ふん、運よくここでお前が生き残ったとしよう。だがその次の超魔道ギリシナヌでお前たちはくたばる。くたばらなければお前たちは永久の苦しみを味わい続けることになる」

 ケンジャノッチはニヤリと笑った。

「ユウ・シャノチーチ、妙に攻撃を渋ってきますね……」

 ユ・ウジンナシがそうつぶやくとウラギールが返す。

「私たちを仲間にしたいからでしょ……」

「いや、それだけじゃない」

 ケンジャノッチが小声で返す。ケンジャノッチはなおもユウ・シャノチーチを挑発した。

「おいおい、そんなに保険かけねえと超魔道ギリシナヌを撃てねえのかよ、このヘタレが」


 巨大な紫色の光はユウ・シャノチーチを離れ、巨大な不死鳥となった。

「これが最後のチャンスだ。降参しないんだな?」

「お前もここで降参しないんだな?」

 ケンジャノッチが言い返す。

「ふん、ガキどもが……」とユウ・シャノチーチがつぶやく。


 ケンジャノッチは小声で二人だけに聞こえるように話し始める。

「これから作戦を話す。聞き逃さないでほしい。これで魔王ユウ・シャノチーチを倒す」


 ユウ・シャノチーチが大声を上げる。

「苦しむがいい、ガキども!」


 巨大な不死鳥から放たれた光は拡散しながらさまざまな角度でケンジャノッチたちの方へとんでいく。激しい音の中、ケンジャノッチは大声で、しかし二人だけにきこえるように作戦を話す。

どれだけ時間がたっただろう、光はようやく消え、三人は手を床に着いた。

 ユウ・シャノチーチは玉座に座る。

「さあ、わかったかガキども、自分たちの無力さが……!」


 ウラギールが回復魔法を放ち、三人はふらっとしながらも立ち上がる。

 ケンジャノッチはそのまま剣を構えながらユウ・シャノチーチの元へ走り出す。

 ユウ・シャノチーチは紫色のオーラを放つが、それは先ほどより心なしか小さいものに見えた。

 ユウ・シャノチーチはケンジャノッチの剣をよけ、拳を入れる。

 ケンジャノッチはよろけるがすぐに体制を整えてまた斬りかかる。


 ユウ・シャノチーチは大声を上げながらオーラを大きくし、ケンジャノッチを苦しめながら殴り続ける。

「生意気なガキが! 調子に乗るな!」ユウ・シャノチーチはケンジャノッチを蹴り飛ばした。その瞬間、背中に鋭い痛みが走る。ユウ・シャノチーチが振り向くと、何かを投げたと思われる姿勢をしたユ・ウジンナシがいた。ユウ・シャノチーチの背中には短剣が刺さっていた。


 ケンジャノッチが喋り出す。

「お前がユ・ウジンナシの弓だけ壊したのに違和感があったんだ。お前のオーラは、魔法は防げても物理攻撃は防げない。だからわざわざあの玉座から離れて弓を破壊したんだ。そしてお前の闇魔法。ユ・ウジンナシに傷ひとつついていないのを見て気がついた。あの魔法は傷を与える魔法ではなく苦痛を与えるだけの魔法。精神力さえあればギリギリ死ぬことはない」


 ユウ・シャノチーチは自分の背中から短剣を抜き、ケンジャノッチに斬りかかる。

 それに気づいたユ・ウジンナシはうしろからユウ・シャノチーチを羽交い絞めにしようとする。

「邪魔をするな、ガキが!」

 ユウ・シャノチーチは短剣を振り回す。短剣はユ・ウジンナシの服だけを切り裂いた。すると、ユウ・シャノチーチの目には、玉座に座るウラギールの姿が見えた。

 ウラギールは「なるほどねぇ」などと感心し玉座から立ち上がった。


「玉座を返せぇ!」

 ユウ・シャノチーチはウラギールに向かって走り出す。しかし、その道はウラギールの作り出した氷の壁に塞がれてしまう。ユウ・シャノチーチは氷の壁を殴り続ける。


 ケンジャノッチは語り続ける。

「そしてなぜお前が魔力の消耗が激しい闇魔法をあんなに乱発できたのか。あの玉座だ。お前は攻撃が終わるといちいちあの玉座に座った。もっと早くその違和感に気づくべきだったんだ。恐らく玉座には魔法石かなにかが埋め込まれているんだろう。お前はあの玉座で魔力を回復していたんだ」


 ユウ・シャノチーチはやっとのことで氷の壁を叩き壊した。

 その少し先では、ウラギールが待ち構えていた。

「すべてを貫け。氷魔法奥義ダンガンミ・タイナコーリ」

氷の結晶がユウ・シャノチーチを襲った。


 ユウ・シャノチーチは血を流しながらもなんとか立っていた。

 しかし、もはや戦える力は残っていなかった。


 玉座に座り魔力を回復しきったウラギールは、強力な魔法を唱えてまだ魔力が余っていた。ウラギールはケンジャノッチに回復魔法をかけた。ケンジャノッチは、ユウ・シャノチーチに剣を構えた。

「ユウ・シャノチーチ、国王の命令によってお前を始末する」


 ユウ・シャノチーチは心の中で笑った。



 ケンジャノッチ……

 残念だよ……


 お前は俺と一緒に

 新しい世界秩序せかいちつじょを拝むことが

 できるはずだったのに……


 つくづく愚か者だ……


 お前が身に着けているバクハーツのブレスレットには爆発魔石が仕込まれている……

 俺にはまだわずかながら魔力が残っている……

 俺の持っている誘爆魔石に魔力を送れば、お前の爆発魔石は爆発する……


 はじめから俺の味方になっていればよかったものを……

 あばよ……ケンジャノッチ……



 ユウ・シャノチーチは隠し持っていた誘爆魔石に魔力を送った。

 しかし、そこには沈黙があるばかりだった。



 おいおい……

 筋書きと違うじゃないか……

 まさか……騙されていたのか……



 ユウ・シャノチーチの目の前に、剣を振り上げたケンジャノッチがいた。



 俺もここまでか……

 してやられたな……



 ふと、ユウ・シャノチーチの視界に、黄色いネックレスが映りこんだ。



 まさか……

 その黄色いペンダント……


 くくく……

 お前だったとは……

 強くなったじゃないか……


 実の息子に敗れるのであれば……

 このユウ・シャノチーチに悔いはない!



 ユウ・シャノチーチは、体に大きな切り傷を負い、そのまま倒れた。

 ウラギールとユ・ウジンナシも倒れたユウ・シャノチーチのもとに集まった。

「終わったんですね……」

 ユ・ウジンナシが口を開いた。

「ああ、これでスライム化現象も止まる」

 ケンジャノッチが返す。


 ユ・ウジンナシは倒れているユウ・シャノチーチの首の裏に何かを見つけた。

「これは……」

「どうしたの?」とウラギールがきく。

「魔王ユウ・シャノチーチの首の裏に怪しげな黒いマークが……」

「黒いマーク……」

 ケンジャノッチはどこかでこれを知っているような気がした。ユ・ウジンナシが続ける。

「こんな話をきいたことがあります……首の裏に怪しげな黒いマークがある者は心を誰かに操られていると……」


 ケンジャノッチは思い出した。ジンロー村の宿で読んだオカルト本に同じようなことが書いてあったのだ。

「確かに僕も似たような話を本で読んだ。それじゃあ……」

「魔王ユウ・シャノチーチを操っていたやつがいるってこと……?」

 ウラギールが言った。ケンジャノッチが続ける。

「何者かが魔王ユウ・シャノチーチを操り世界に呪いをかけさせた。この事件の本当の黒幕は別にいる……」


 不穏な空気が流れた。ウラギールが口を開いた。


「ひとまず国王のところに戻りましょう」




【次回予告】

 とうとう魔王ユウ・シャノチーチを倒した勇者ケンジャノッチたち。国王の城に戻る道中、ユ・ウジンナシから衝撃の真実が告白される。え、友達が100人いるって話は……。そして、ウラギールは見覚えのあるネックレスに気づいてしまう。


 次回、偽りの青年ユ・ウジンナシ。


 ネタバレは禁止だよ。

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