第3章:決戦

#12 復讐の青年ユ・ウジンナシ


 魔王の城への道中、魔道士ウラギールがこのあたりで休憩しないかと提案した。そろそろ昼飯どきだったので、勇者ケンジャノッチと剣士マトハズレイは同意した。三人は丸太や切り株に腰かけて食事をとった。マトハズレイは早々に食べ終え、二人が食べ終わるのを待つ間スクワットをしている。膝を曲げる度にいちいち気合の入った声を出すので、正直うるさかった。


「なあ、ウラギール」

 ぼーっとしながら食事をとっていたウラギールは、突然耳元で声がしたので驚いた。

「ごめん、そんなに驚かなくても」

「ごめんなさい、私がぼーっとしてただけ。なに?」

「どうしても気になってることがあるんだ」


 ウラギールは少しだけ目を伏せ呼吸が乱れたが、なるべく平静でいようとした。


「いいよ、言って」

「僕はできるだけ仲間のことを信用したいし、疑うなんてことはしたくないんだ……でもどうしても気になることがあるんだ」

「なに?」


 ケンジャノッチは少し言いよどんだが、決心してウラギールに質問した。

「マトハズレイって本当に頭脳明晰なのかな……」

 ウラギールは嘘偽りのない心で真剣に答えた。

「いまさらだよ」


 スクワットをしているマトハズレイの気合の入った声が鳴り響いていた。




 三人は魔王の城に向かって歩き始めた。ケンジャノッチは、ウラギールがちらちらこちらを見ていることに気づいた。

「僕の顔になにかついてるかな?」

「え?」

 ウラギールは意外そうな顔をし、なにかをごまかすように話した。

「ううん、ケンジャノッチってネックレスをしてるんだなって思って」

 ケンジャノッチの首のあたりには、小さなチェーンが見えた。ケンジャノッチはネックレスの上に服を着ているため、そのネックレスの先に何がついているのかは見えない。

「ああ、このネックレスは父さんが家にのこしていってくれたんだ」

「形見ってやつだな!」

 マトハズレイが会話に入ってくる。

「そっか……」

 ウラギールが少し申し訳なさそうに言った。

「いや、死んだと決まったわけじゃないんだ。僕が小さい頃に『俺は強くなって帰ってくる』とか言って、僕と母さんを置いていなくなったんだ。顔だってもう覚えてない。今頃どこで何をしているのか……強くなり過ぎて魔王にでもなってたりしてな」

「ケンジャノッチ、魔王ユウ・シャノチーチがお前の父親のわけがないだろう」

 マトハズレイが冷静にツッコミを入れる。ケンジャノッチは「冗談だよ」と少し笑った。


「このペンダントはもともと2つあったらしいんだ。もしかしたら父さんも同じものを持っているかもしれない」

「もしお父さんと会えたらどうしたい?」

 ウラギールの質問にケンジャノッチは思案した。

「本当はぶん殴ってやりたいところだけど……でも本当に会ったら抱きしめてしまうかもしれない」

「やっぱり会いたいんだね」

「まあ……二度と会うことはないと思ってるけどね」

「自分の父親だと気づかずに自分の手で命を奪ってしまうなんてことが起こらないといいけどね」


 ケンジャノッチは静かに答える。

「もしそんなことをしてしまったら、僕は生きていけないかもしれない。万が一僕が父の命を奪ってしまったならいっそそのことに気づかないまま死んでいった方がマシだな」

 歩いている三人に、少しの沈黙が訪れた。ケンジャノッチが口を開く。

「ごめん、感傷にひたっちゃって……」


 ウラギールは立ち止まった。それに気づいた二人も立ち止まる。

 ウラギールは前方を指さした。

「見えてきたよ。魔王の城が」


 遠くには城がそびえたっていた。国王の城に比べれば小さいがそれでも立派なものだ。ウラギールはなにかを決意したように先頭に立った。

「どうして国の人々が失踪しているのか。この事件の黒幕の魔王に洗いざらい吐いてもらいましょ!」

「ああ、行くぞ!」

 ケンジャノッチの声を合図に三人が歩き出すと、後ろから何者かの声がきこえた。


「待ってください!」


 三人が振り返ると、見覚えのある青年がいた。

「む、お前は確か友達が100人いるとか言っていたやつだな! また戦いにくるとはいい度胸だ! 私の計算によればお前が私たちに勝てる可能性はたったの48%しかない!」

「え、ほぼ互角ってこと……?」

マトハズレイの言葉にケンジャノッチが指摘をする。青年ユ・ウジンナシは「違うんです」と慌てて否定したが、マトハズレイは聞く耳を持たない。


「敵の話などきくに値しない! 頭脳派の私と拳で語り合おう!」

「あの、本当にありがとうございました!」

 ユ・ウジンナシは頭をさげた。


「む……頭を下げて油断させる作戦か! なかなか知的じゃないか! だが私たちの頭脳はお前より遥かに上だ! そんな作戦には騙されないぞ!」

「マトハズレイ黙って」

 ウラギールがそういうとマトハズレイは素直に黙った。


 ユ・ウジンナシは言葉を続ける。

「あの、ききました。人狼を倒してくれたって。俺の母さんの仇をとってくれたって。なんとお礼を言っていいやら。……どうやら人狼のやついちばん最初に俺のおじいちゃんを襲っておじいちゃんに化けていたみたいなんです。まったく気づきませんでした……優しいおじいちゃんがいつの間にか人狼になりかわっていたなんて」


「あの人狼が私たちに優しかったのって生前の村長と同じようにふるまっていたからなのかもね」

 ウラギールががそう言うとケンジャノッチが続けた。

「きみのおじいちゃんは素敵な人だったんだね」


ユ・ウジンナシが口を開く。

「あの、これから魔王を倒しに行くんですよね。俺も連れてってください!」

 ケンジャノッチとウラギールは驚いた顔をする。

「私たちはこれからとても危険なところにいくの」

「わかってます! でも一生懸命頑張ります!」

 ユ・ウジンナシが続ける。

「俺、おじいちゃんもお母さんもいなくなって、お父さんも子供の頃どこか行っちゃって。俺、ひとりぼっちなんです」

ケンジャノッチが「でも、きみは友達が100人いるじゃないか」というとユ・ウジンナシは口ごもった。少ししてまたユ・ウジンナシが話し出す。

「あの人狼って魔王の手下なんですよね? 俺は復讐したいんです。お願いします! 一生懸命頑張りますから!」


 ケンジャノッチとウラギールが考え込むと、マトハズレイが威勢よく声を上げる。

「気に入った! お前の心意気、私は気に入ったぞ!」

「ちょっと大丈夫?」

「まあ大丈夫だろ! 私は剣士のテレーゼ・マトハズレイだ! 的を得た分析で定評があるぞ!」

 マトハズレイの自己紹介を皮切りに、みんな簡単な自己紹介をした。


 序盤で三人になってしまった勇者パーティは、再び四人となった。

 四人はそのまま歩き出し、魔王の城の門をくぐった。




 意外にも、扉は鍵もかかっておらず警備もいなかった。四人が城の中に入ると、そこらじゅうに半分液体のような猫の大きさくらいの半透明の紫色の生き物が、鳴き声をあげながらせわしなく物を運んだりケンカしたり眠ったりしていた。

「く……すごい量のモンスターだな……こいつらに気づかれず進みたいところだけど……」

 ケンジャノッチはそう言って考えようとしたが、マトハズレイは構わずそのまま進んだ。

「え、マトハズレイ?」

「構わん、もし襲ってくるようならこのマトハズレイの頭脳プレーで叩きのめすだけだ!」

 そういってマトハズレイは剣を抜き堂々と歩いた。

「い、いくらなんでもこんな数のモンスターを相手にするのは……!」


 ケンジャノッチの心配をよそに、モンスターたちはマトハズレイが近づくと逃げ出したり、無視をして横を通過したり、誰も襲う気配を見せなかった。

「さあ、行くぞ!」

「あ、ああ……」

 三人はマトハズレイのあとについていった。

「マトハズレイのアネキ、すごいっすね!」

 ユ・ウジンナシはマトハズレイに尊敬のまなざしを向けていた。


 マトハズレイたちがそのまま先に進んでいくと、顔を隠し鎧をまとった人間が扉の前に立っていた。

「誰かいる、どうする?」

 ケンジャノッチがきくとマトハズレイは「構わん、もし襲ってくるならこのマトハズレイが叩きのめすだけだ」と構わず前に進んだ。

「そ、それはさすがに……」

 マトハズレイは堂々と進み、鎧の人間はそれに気づいた……




【次回予告】

 明らかに強そうな鎧を身にまとった人間。こいつとの戦闘を回避することができるのか? でもこの人の声、どこかできいたことある気が……?


 次回、鎧の男スパイデス。


 ネタバレは禁止だよ。

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