灰は被りっぱなし

『ごめんなさい、わたしもう帰らないといけないの……!』

 そう言いながら王子様の手を離して、出口を真っ先に見つけて駆けた───────




「お前、なんで舞踏会にいたんだ?」

 継母は言った。わたしは城を出る前に12時の魔法が解けて、その瞬間を義姉に見つかってしまった。舞踏会に浮かれていたのだろう。詰めが甘かった。


「部屋の掃除と皿洗いを命じただろ。何勝手に舞踏会行ってんだよ」


 ごめんなさい、としか言いようがない。いくら舞踏会に行きたかったとはいえ、仕事はきちんと済ましておくべきだった。いや……義姉に見つかってはならなかった。わたしの不注意で、舞踏会が台無しになってしまった。


「ごめんなさい……」


 とその時、コンコンとノックの音がした。

 聞くに、舞踏会で靴を落とした人を探しているらしい。

 その靴の持ち主が、王子様のお気に入りの人だと。


 きっとわたしの靴だ。

 だってわたし、その靴のもう片方をもっているもの。

 持ってこなくちゃ。


「履いてみてもいいかしら?」

 義姉は言った。

 その横顔からは、わたしに試し履きをさせないようにするという意思が感じ取れた。


「いや履かなくても分かります。あなたの家で最後なので」


 義姉の顔が明るくなった。わたしの顔は絶望に染まった。

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