勿忘草

「ソティ、ちょっと手伝ってくれない?」


 母は、昔から私のことを「ソティ」と呼んだ。

 可愛い響きで、その呼び名は私も気に入っていた。

 けれど、どうして呼ばれていたかは、少しも分からない。

 母が亡くなった今まで、誰からも聞いたことがなかった。

 いや、尋ねても誰も答えてくれなかった。

 ちょうどいい機会だ、考えてもいいかもしれない。

 私だって、母の遺産だ。


 本名から推測してみる。

 古賀須 澪子。

 これで「こがす みおこ」と普通に読めるだろう。

 確かに、名字も名前も、ありふれたものとは言い難いかもしれないが、だからといって珍しいと上げられるものでもないだろう。

 ならば、本名は関係ないのかもしれない。


 母は私を産む直前父と離婚した。

 そして、その後生まれてきた私に澪子と名付けた。


 そういえば母の旧姓は何であったか。

 高橋、鈴木、田中。

 そういう人数が多い名字だった気がする。


 ならば、名字をわざわざ古賀須にしたということではなかろうか。

 戸籍をいじったということでは。

 ならば、本名とソティに関係あるのではないか。


 古賀須。こがす。「こ」が「す」。

 まさかとは思いつつも、偶然ではないような気がしていた。


 澪子の「こ」を「す」に変える。

 そして、「ソティ」と組み合わせると、


 ミオソティス。勿忘草だ。確か花言葉は、「真実の愛」とか「私を忘れないで」。


 母は父に未練があったのだろうか。

 気持ち悪いなと思った。

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