キューピッドの猫

 可愛いと言われたいな。そんなことを思いながら膝の上の猫を撫でる。


「お前はいいよな、何しても可愛いって言われて」


 ウニャ?とわたしを見上げる猫を見て、愛おしく目を細めてしまった。


「カナエくんって、どうしたら可愛いって言ってくれるかな。あの人、誰にも可愛いって言わないらしいからさ。まあ、そういうところが好きなのだけど」


 あの人にどんな女の子が好きなのか聞いても、のらりくらりとかわされてしまっていた。どんな格好をしても「似合ってるね」としか言わないから、何度も挫けそうだった。


「可愛いと似合ってるは違うじゃん」


 と、突然膝の上から猫が去った。


 お前もわたしを見捨てるのかと、ちょっと悲しくなりながらもそれを追いかけた。猫は窓から庭に飛び出て家の敷地から出る。素足で追いかけたから、地を直接感じて少し足がヒリヒリした。


「あ、カナエくん……?」


 家の敷地から出た途端に、追いかけていた猫をカナエくんが抱えているのが見えた。


「これお前ん家の猫? ったく、ちゃんと管理しておけよな」


 カナエくんはそう言って猫をわたしに押し付けて、そのまま去って行こうとする。わたしは勇気をカナエくんにぶつけた。


「待ってカナエくん、ちょっと話さない?」


「え……それはちょっと」


 そう言ってカナエくんは目を逸らす。


「んー何でよ」

「なんかお前、」


 カナエくんは深呼吸をしてから言った。


「可愛すぎて目のやり場に困る」


 初めて可愛いと言われた。けれど、格好が格好なだけに、思ってもいないことが口から飛び出す。


「なにそれ、普段のわたしが可愛くないみたいじゃん」

「や、別にそうじゃなくて、」


 カナエくんは俯きながら言った。


「ずっと可愛いんだけどさ。いつもは可愛すぎて言えない」


 腕の中の猫が身震いをする。わたしは大きな勘違いをしていたようだった。

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