孤独
ただ少しの雪の中に、私は息荒く歩いていた。人も犬も熊もおらず、私は寂しく歩き続けた。
「雪……なんて久しぶりだろう」
声に出しても返ってくることはなく、私はまた、一人であることを実感する。
十年前兄が亡くなってから、私の家族は、私一人だけになった。苦しい日々が続いていたが、様々な人と助け合い少しづつ進んでいった。一歩踏み出すたびに、私の心が軽くなったようだった。
「けれどそれも、今日で終わりにしよう」
私は目的地にようやく着いた。何もない山の頂上。けれど、ここにある人々の想いを、私は感じることができる。
「ようやく終われるのか」
ため息をついてから、私は身をのり出す。家族に会うために、私は飛んだ。
***
地獄。何故家族に会えないのかと、私は泣き叫んだ。
「罪を犯したからだ」
と鬼は言う。
私は、罪など犯していない。犯す勇気さえないのだ。理不尽な世の中で、私の家族を殺した者を見つけ出すことすら、怖くてできなかったというのに。
「家族に会いたいのか、何故だ」
と鬼は問う。
理由が出てこなかった。会いたいに理由などないというのだから、答えられるはずもない。
「御前が会えないようにしたというのに」
と鬼は顔をしかめる。
私が会えなくした。その言葉が私を巡る。家族に会いたいと願うわたしが、そのようなことをするはずがない。
「そのままの意味だ。御前が兄以外の家族を殺した」
と鬼は言う。
私の家族を殺したのは兄だというのに、鬼はそのような嘘を平気で口にした。私の胸の中の怒りがふつふつと沸き上がる。
「……返せ。私の家族を返せ」
私の煮えたぎる怒りはもう止められなかった。自然と拳が出て、視界から鬼が消えた。
鬼が消えて怒りがなくなったところで、私は正気に戻った。そういえばここはどこであろうか。
自分の所在を確かめようと歩んだとき、何かが足に当たる。それは、血を流して倒れた鬼だった。
「……また兄がやったのか」
私はそう呟いた。
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