第2話
放課後になると廊下は一気ににぎやかになる。
部活へとむかう子も早々に帰っていく子もいる中で、わたしは机にすわったままぼんやりと外の景色を眺めていた。
親友の雪がやってきて「どしたん?」と顔をのぞき込んできた。
「ん-ん」
「そ?」
持ち主の帰った前の席に勝手に座りながら雪も肘をついて向かい合って外を見る。ひとりだったりいくつかのグループだったり、それぞれが放課後の解放感と共に校門の外へと消えていく。
「心結、部活は?」
「今日は休み」
「そか。ウチとこはこれから」
「じゃあ早くいかないと怒られるじゃん」
「まね。でも大丈夫? 今日ずっとぼーっとしてるけど。っていつもか」
「ひど」
えいっと雪の肘に肘を当てると、支えを失った雪の身体が前のめりになった。
「あっぶなー」
「失礼な事いうからですー」
「はは。でもほんとに大丈夫? なんか今日のぼんやりレベルやばくない?」
急にまじめな顔つきになるからわたしも「うん」と答えた。
「大丈夫。っていうかさ、見た? ニュース。お笑いの人がさ、うちらくらいの年の子と結婚したじゃん」
「それが?」
「なんかさ~あの子は年上の人に選んで貰えたんだなって」
「ああ」
思い当たると言うように雪は頷いた。
「成瀬先生ね」
英語の先生でわたしより10歳年上の27歳。丸いメガネが印象的な優しい風貌で他の生徒からも「なり」と呼ばれて慕われている。
一年生からの受け持ちで、英語が苦手なのに先生によく思われたくて必死で勉強しているのだ。なかなか結果はついてこないけれど、会えば「がんばってるか」って声をかけてくれる。
最初は優しい先生だなあってくらいだったのに、いつの間にか目で追うようになって、気がつけば好きになっていた。これといった特別な出来事もインパクトもなかったのにあっという間に心の中に住み着いてしまった先生は、わたしの気持ちに気がつくはずがない。
「報われない恋ですなあ」
雪はそういってなぐさめるようにわたしの頭を撫でた。
「それで? そのニュースに出てきた子が羨ましくてぼんやりしてたわけですか」
「そう言われるとちょっと変だよね。なんかねえ、いいなあって。初恋の人と結婚して一生幸せに過ごせるなんて夢みたいだと思わない?」
「一生ねえ」
雪は少しだけ表情を曇らせると「知らんけど」と呟く。
「うちの両親は別れちゃったからなあ」
「あ、ごめん」
「謝ることないよ。別に心結のせいじゃないし、昔の話だしさ。でもあたしは結婚に夢を見れないからな~ちょっと羨ましい」
ははっと明るく笑って見せた雪は時計を見ると慌てたように立ち上がった。
「やっば。マジで遅刻する。ごめんもう行くわ」
「うん。いってらっしゃい」
「心結もいつまでもぼんやりしてないで気をつけて帰るんだよ!」
そうお母さんみたいなことを言いながら大きなカバンを担いで教室を出ていった。残されたわたしもそろそろかな、と教室を出る。
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