好きです、先生。
乃木のき
第1話
テレビを見ていた母が「いやあ」と不快そうにつぶやいた。
何事かと思ってみれば、芸能人の結婚報道だった。へえ、と思いながらチラリと横目で見る。
『年齢差18歳!』とセンセーショナルな見出し。しかも女性はまだ10代だと言う。
「いくら好きだって言ってもねえ。10代の子を捕まえて結婚しますってないわ」
マグカップを両手で持ちながら母はテレビにそう話しかけていた。
「こんないい大人がねえ、子供に何てことしてるのよ」
「でも18で成人してるよ」
冷蔵庫から野菜ジュースを取り出しながら反論すると、母は不審そうにこちらを見た。
「
「ああ、はいはい」
「そんな適当に!」と怒った声を出しつつ、目線はすぐに次の話題へと向かう。
成人が18歳になったというけれど、実質高校生のわたしたちにはなんの意味もない。成人式だって二十歳になってからだし、変な責任だけが押しつけられた形だ。
だけど成人したら親の許可がなくても結婚が出来る。それこそどんなに年齢差があったってお互いの同意さえあれば叶うのだ。
いいな、初恋を実らせたんだね、と心の中だけで祝福を送ると飲み終わったジュースの紙パックを畳んでゴミ箱に入れた。
高校二年生の三学期はあっという間に過ぎていく。
新学期が始まってテストが終わって気がつけばもう春が来る。そうしたらこの学校で過ごすのも最後の一年になる。
日が長くなってぽかぽかと太陽が照らす窓側の席にすわりながら、わたしはぼんやりと考える。
18歳も年上の男の人に好きになってもらえたあの子のことを。
どんなに好きだって伝えても、子供だからなって流されてしまう恋する気持ちをあの子はずっと大切に持ち続けていたんだろう。
時が来るのを待って。
成人するその日まで自分を磨いて虎視眈々と狙っていた。
「朝比奈」
呼ばれてビクリと立ち上がると黒板の前にいる教師が呆れたような視線を投げた。
「まだ冬休みボケか? これ解いてみろ」
「あー、ごめんなさい。わかりません」
「わからないじゃないよ。ほんとにお前たちマジで一年後には勝負が決まってるんだぞ。いい加減本気を出せよ」
「はいすみません」
謝りながら席にすわると斜め前の友達の雪がペロっと舌を出してふざけた顔をして見せた。わたしもそれに応えながら「わかってるよ」と思う。
残された時間がはあと一年。たったそれしかない。
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