第44話

 無事に皇帝府会議を終えた私たちは屋敷に戻り、なんとかみんなに勝利報告をした。もちろん、上級公爵やエリーゼが参戦していたことも、最終的に良い所は全部アノッサさんが持って行ったことも、すべて話した。


「ほう、それはずいぶんと危なかったんだな」


 私たちの話を聞いた後も、ジルクさんは相変わらず冷静な様子だったけれど、どこかほっとしているようだった。


「ああ…正直僕も今回ばかりはもうだめかと思ったよ…」


 そしてジルクさんとは比にならないほどに、心の底からほっとしている様子のシュルツ。


「はぁ…本当に疲れちゃいました…」


 そしてシュルツと同様に、心の底からほっとしている私。


「クスクス。ともかく、無事に終わったようで何よりだわぁ。お食事は私が用意してげるから、二人はしっかり体をお安めになってくださいな♪あ、暇そうなジルクちゃんも手伝ってよ?」


 いつもの様子でそう言葉を発するノーレッジさんに対し、反射的に噛みつくジルクさん。


「だーかーらっ!俺はお前より上司なんだからこういうときは」


「はいはい、続きはあっちで聞きますから」


 その言葉を最後に、部屋を去っていく二人。魂の抜けたような私とシュルツの二人だけが、この場に残される。


「…なんだか、実感がわかないね」


 シュルツがボソッとそうつぶやいた。その表情は、どこか不思議そうなそれであった。


「…私たち、認めてもらえたんですよね…皇帝府長に」


 その実感があまりないのは私も同じだった。でもそれを口に出しながら、あの会議室でのやり取りを思い出すと、だんだんと実感がわいてくる。


「…あの時のソフィア、本当にかっこよかったよ」


「あ、あの時は気持ちがあふれちゃって…忘れてくださいっ…」


 思い返してみれば、自分でも信じられない…けれど少なくとも、昔の私だったら絶対にエリーゼにあんな口はきけなかった。シュルツやみんなの事を思ったら、なんだか勇気が湧いてきて…


「…なんだか僕、みんなに助けられてばっかりだ…」


「?」


 …彼が珍しく、消沈している。今回の一件が、相当こたえたのだろうか…?私は考えるよりも前に、シュルツのもとにまで歩み寄り、彼の手を取る。


「…私が戦えるのは、あなたのおかげ。あなたが隣にいてくれるだけで、私には不思議と勇気が湧いてくるの」


 それは嘘偽りのない私の真実。シュルツや周りの人々の事を思うと、私は体の底から熱いものが込み上げてきて、全身に力を与えてくれるのだ。


「ソフィア…」


 彼の目を見て、ゆっくり語り掛ける。


「大丈夫!あなたは勇敢で、勤勉で、…か、かっこよくて…」


 自分でもやや恥ずかしいけれど、もう止められない。


「…私は、そんなシュルツの事が好き。あなたと、ずっと一緒にいたい」


 …次の瞬間には、私たちの間に距離はなくなっていた。


――――


「…あらあらまあまあ、お料理の味付けどちらが良いかお伺いしようと来てみれば…」


「……やれやれ、見せつけてくれるね全く…」


 扉の隙間からほくそ笑む二人の姿を、私たちは知る由もないのだった。

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