第40話

「そうか、なにも収穫なしか」


「…」


 腕を組み、ため息を含ませながらジルクさんがそう言った。今日一日中、思い当たる人や場所を回っては見たものの、会議に関する情報やアノッサさんの考えに関する情報は得られなかった。期待していたユナイトさんも、ほぼ空振りだったし…


「はいジルクちゃん、お茶♪」


 そう言って、ジルクさんの部下にあたるノーレッジさんが、ジルクさんの前に暖かいお茶を差し出す。口調やふるまいこそ独特だけれど、ノーレッジさんは正真正銘のイケメン男性だ。彼は普段は皇帝府の方で仕事をされているらしいけど、今回の件について何か情報を知っていないかと、ジルクさんがここまで呼び寄せたらしい。


「…おいお前、一応俺の部下なんだから、こういう場じゃ『ジルクさん』だろうが」


「あ、あはは、ごめーん」


 …こういう場って事は、普段はジルクちゃんって呼ばれてるの!?…と、一瞬だけ全く今回の件とは関係のない疑問が私の中に浮かんだ。

 …ジルクさんはそうは言いながらも、出されたお茶をおいしそうに飲み干す。そしてそんなジルクさんの姿を、どこか愛おしそうに見つめるノーレッジさん…その光景があまりにもあまりにもであったから、思わず私は二人に言葉を投げかける。


「あの…お二人って付き合ってるんですか?」


「っ!?」


「?」


 …反応はかなりわかりやすかった。ノーレッジさんはあまり表情を変えていない様子だったのに対し、ジルクさんは顔が少し赤くなっている。


「さすが、女の子は鋭いわね!そうなのよー、私たち以前からそういう関係で」


「ふざけるなアホが!誰がお前なんかと付き合うか!」


 …私がこの二人の距離感をきちんと理解するには、まだまだ時間がかかりそうだ…けれど、さっきまでアノッサさんの一件で頭がいっぱいだった私の頭が、二人のおかげで少し気持ちが穏やかになる。そしてそれは、シュルツもまた同じ様子だった。彼と二人でにやにやと二人を眺めていると、どこかしびれを切らした様子のジルクさんが話題を変える。


「…それで、これからどうする?思い当たるところはもう全部回っちまったんだろ?」


 その問いかけに、表情を真剣なものにするシュルツ。


「僕が思いつく限りは、もう全部回ってみた。…もう時間の余裕もないから、こうなったらアノッサたち婚約反対派がどんな意見を持ってくるかを予想して、それに対する反論を用意する方がいいかもしれないな…」


 聞いて回る時間がないとなると、もうそれしかない…どこか雰囲気が落ち込んでいる皆に、私は声をかける。


「あ、あの!私、絶対にあきらめないから!最後の最後まで…!」


 私の言葉に、まずジルクさんが反応する。


「当たり前だ。俺たちを誰だと思ってやがる」


 次に、ノーレッジさん。


「そうそう!二人には早く結婚してもらって、そしたら二人の力で私とジルクちゃんを…あ」


 …皆からジト目を送り付けられているのに気づき、言葉を改めるノーレッジさん。


「…っと言うのは冗談として…こほん。私は本当にシュルツ様とソフィア様はお似合いだと思っています。私もお二人の事を、最後まで諦めたくはありません」


 そして最後に、シュルツ。


「僕は今まで、君のような魅力あふれる女性に会ったことがないし、それはきっとこれからもそうだろう。僕だって、絶対に諦めないよ。絶対にアノッサに勝って見せる」


「み、皆さん…」


 胸の中に、熱いものが込み上げてくる。戦う覚悟が、一段と深まる。


「よし、それじゃ始めようぜ。二日間不眠不休だろうが、文句はないな?」


「あ、私まだソフィア様のお料理を食べたことがないから、食べてみたいわ!」


「い、一番初めにソフィアの料理を食べるのは僕だからね!!」


 …そんな調子で丸二日、私たちは準備に明け暮れた。そして翌日、ついに運命の皇帝府会議の日を迎えた。

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