第20話

 私は軽蔑されるのを覚悟で、伯爵にすべてを打ち明けた。ただの女の直感に身を任せての告白だったけれど、この人には私の全てを知ってもらいたいと思ったから。

 けれど伯爵は軽蔑するどころか、私を自身の胸元へ抱き寄せ、その優しい声で私に愛をささやいてくれた。愛など知らぬ凍りついていた私の心が、ぬくもりを感じながら徐々に溶けていくような感覚を覚える。私は伯爵の心臓の鼓動を耳で感じながら、そのぬくもりに身をゆだねていた。


「ソフィア、僕も君にすべてを打ち明けるよ」


 伯爵は私を抱き寄せたまま、私の目を見つめながらそう言った。私は力強くうなずき、伯爵の言葉を待った。もはや彼がどんなことを打ち明けてきたとしても、私はこの人と添い遂げる覚悟だった。しかし彼が話した内容は、私が覚悟していたようなものとは正反対だった。


「…実は僕は、貴族ではないんだ。本当の僕は、アルカラン帝国皇帝クリティウスの息子。世間で言うところの、皇太子なんだ」


「っ!?!?!?!?!?」


 …なんの、冗談だろうか…?全く想像もしていなかったその言葉に、私はついていけず絶句してしまう。


「え、え?え、、え?」


 何も返事をしないわけにはいかないので、なんとか言葉を発しようとはするものの、言葉にならぬ言葉が口からこぼれる。そんな私の状態を察してか、彼は順を追って丁寧に事情の説明を始めた。 

 …聞いた話を要約すると、貴族の立場から政治や財政の経験を積むためにわざと地方貴族となった事、あえて評判を落とすというやり方で婚約者を探していたという事、そして何より、私と二人で帝国の未来を創っていきたい、と真剣に考えている事。


「も、もちろん隠してたのは僕だから、もしもがっかりしちゃったなら…」


 少ししょんぼりした様子で、不安そうに私の目を見つめてくる。私にはその表情が、なんだかすごくかわいらしく思えた。…目の前ですこし俯くこの人が、まさか次期皇帝陛下だなんて…


「だ、大丈夫ですよ、伯爵。…正直すごくびっくりしちゃいましたけど…私、伯爵とずっと一緒にいたいです。…こんな私でよければ、ですけれど…」


「も、もちろん!」


 互いに頬を赤くし、私たちは笑みを浮かべ合う。お互い本当の事を話し合ったからか、どこか心がすっきりしたように感じられ、それは伯爵も同じ様子だった。

 その後は二人で、お互いの事、今までの事、これからの事を夜が明けるまで話し合った。その時間はとてもとても満ち足りた時間で、文字通りこのまま永遠に続いてほしいとさえ思った。

 しかし体はそうはいかず、気づいた時には二人ともダウンしてしまい…


「…伯爵、朝ですよ、伯爵」


「…あ、ソフィア…おはよう…ございまぁす」


 私はお部屋の窓を開け、新鮮な外の空気を室内へと取り入れる。寝ぼけている様子の伯爵の顔を見て、どこか安心感を覚える。この人が将来の帝国皇帝だなんて、正直今でも信じられない。それほどに彼はどこかかわいいというか、堅苦しさが感じられないというか…


「ねぇソフィア、お願いが…!」


「?」


 一体、何だろうか?あんな衝撃的なことを聞いた後だから、もう何を言われても動揺しない自信はあったものの、伯爵のお願いはまたも私の想像外のものだった。


「伯爵でなく、名前で呼んでほしい、なんて…」


 …どこか恥ずかしそうにそう言った彼に、一段と愛おしさを覚えた。

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