第14話

――ターナー視点――


 秘密の作戦会議を終えた私たちは伯爵と別れ、公爵家を目指して馬で駆けている。前を走るソフィア様の姿を見て、今でもどこか違和感を隠せない。以前までは馬にまたがることにもびくびくされていたソフィア様が、今やこうして騎士のように凛々しく馬にまたがり失踪している。

 私はふと空を見上げた。広い青空に、雲と太陽が浮かんでいる。…それを見て、少し昔を思い出す。


――数年前、まだフランツ公爵が伯爵だった時の事――


 伯爵家は広くて、掃除が大変だ。私はほうきを片手に、少し背伸びをする。上を見上げると、透き通った広い青空が目に入る。この景色は、決して飽きがこない。

 さて、掃除を再開するかと思った時、何やら遠くから声が聞こえる。こちらに向かって叫んでいるようだ。


「おーいターナー!やったぞ!!公爵位が授与されることに決まった!!」


 声の主は我が主人、フランツ伯爵その人だった。私も負けまいと、声を上げる。


「おめでとうございまーす!!!」


 伯爵は意気揚々と私の前まで来ると、走りの反動で膝に手をついて息切れしている。そんな彼の姿を見て、私は自然と微笑んでいた。


「やった!これで、みんなの生活はもっと豊かになる!食べ物も薬も、もっと手に入るよ!」


 いつになく、嬉しそうな表情だ。まるで少年のよう。そしてきっと私も、伯爵に負けないほどの表情だったことだろう。


「では、お祝い会を開きましょう!皆で、喜び合いましょう!」


「それだ!さすがターナー!!さっそく、準備しよう!もちろん僕も手伝うよ!!」


 ついさっきまで息が上がっていたのに、そんな疲れはどこへやら、また走って奥に行ってしまう。


「ほーら!ターナーもはやくはやくー!」


 こちらを振り返り、手を振って早く早くと急かしてくる。本当に、愉快なお人だ。

 伯爵はずっとこんな調子だ。自分の事よりも周りに目を配り、時に厳しく、時に優しく、けれど嬉しくなるとあんなふうに、子どものようになる。そんな伯爵が皆、大好きだった。




-- --




 少しずつ馬の揺れを思い出し、現実に引き戻される。…公爵が変わってしまったのは、いつからだろう。きっかけが全くわからない。爵位が上がったから、変わってしまったわけでもないように思う。

 私は、少し先を行くソフィア様に視線を戻す。ソフィア様は、変わってしまった公爵しか知らない。それが、本当に無念でならない。けれど、公爵様を擁護するつもりは全く無い。ソフィア様が受けた苦しみは、きっと私が想像する以上の事だっただろう。

 全てが終わったなら、私は公爵様と共に罪を償いたい。それだけの覚悟はある。

 …そしていつの日か、あの日のように皆で笑い合える日が、私たちの大好きな公爵が、全部戻ってきて欲しい…そう願わずにはいられなかった。

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