第15話

 完全にソフィアに言いくるめられてしまっている公爵とエリーゼ。二人はなんとか彼女の鼻を明かす手立てはないかと、頭を巡らせていた。


「このままただ時間が過ぎるのを待つことなどできない…なにか自信満々なソフィアを驚かせ、ざまぁみろと言わせられる方法はないものか…」


「お兄様、私も全く同じ思いです。…婚約破棄によってようやくお姉様のいない穏やかな生活を手にいられると思っておりましたのに、最後の最後まで私たちを嫌な気持ちにさせることしか考えていないんですもの…本当につらい気持ちになります…」


「大丈夫だよエリーゼ。君にはこの僕がついている。必ずソフィアの奴に痛い目を見せてやるから、安心してほしい!!」


 公爵にとって、エリーゼの悲しむ様子ほど自らを傷つけるものはない。たとえそれが彼女の演技であろうとも。


「なにか、なにかあるはずだ…ここから逆転する手立てが、必ずなにか…」


 頭をフル回転させなんとかエリーゼの助けになろうとする公爵。そんな彼を見て、エリーゼはある提案を行った。


「実は…私に一つ、考えがあるのです」


「なんだい?言ってみるといい」


「で、でも…さすがにこれはお姉様がおかわいそうに…」


 再び演技で悲しむそぶりをするエリーゼ。それは公爵の心をつかむには十分すぎるものだった。


「あぁ、これだけソフィアに虐げられた今でも、彼女の事を心配しているのか…君はどれほど美しい性格をしているんだ…」


「お、お兄様…私は決してそのような…」


「だけれど、気にすることはないよ。そんな君の想いをソフィアは裏切ったのだ。あんな女に同情の余地など全くない」


 力強くそう言葉を発した公爵。エリーゼはそんな公爵の様子を見届けた後、自分の思いを話始める。


「…お兄様、シュルツ伯爵という人物をご存じですか?実は先日私のもとに、婚約してはくれないかという内容の手紙が届いたのです」


「なっ!?」


 愛する愛するエリーゼに婚約を申し込んでくるなど、それだけでも万死に値する。…という怒りの感情が湧き出ている様子の公爵だったが、エリーゼを前にしてなんとか押し殺すことに成功したようだ。


「あぁ、もちろん知っているとも。王都からは遠く離れた辺境の地で伯爵をしている貴族だろう?容姿が信じられないほど醜くて、性格も乱暴で粗悪。生まれながらに友人も一人もできず、家族からさえ見放されている形だけの辺境伯…というのがもっぱらの評判だけれど…まさかそんな底辺の人間が愛するエリーゼに婚約話を…身の程知らずが!ソフィアの次はシュルツを罰してやらなければならないな!」


 荒々しくそう口調を強める公爵に、エリーゼは静かな口調で言葉を返す。


「…いるとは思いませんか?これほど底辺でどうしようもない三流伯爵に、ぴったりな婚約相手が」


 途端、それまで怒りに満ち溢れていた公爵の様子が豹変した。


「…ククク、なるほどそういうことか。確かにいるね、どうしようもない人物にぴったりな、どうしようもない人物が(笑)」


 二人は笑顔を浮かべ合い、お互いの考えを共有した。その頭の中には、全く同じ計画が浮かんだことだろう。


「あの生意気でむかつくソフィアをシュルツの婚約者として強引に送り付ける。魅力など全くない嫌われ者同士、ある意味上手くいくかもしれないし(笑)」


「それに、婚約破棄は契約上できなくても、婚約の上書きなら問題ないと言い張れますわ。お姉様の方が勝手に新しい婚約を結んだということにできますからね!」


「さすがエリーゼ!見事なアイディアだ!これほど愉快で心躍ることはないぞ!!早速準備にとりかかろうじゃないか!」


「私も手伝いますわお兄様!」


 二人はさっそくシュルツ伯爵に対しての返事をしたためた。シュルツは相手に構わず婚約の申し込み書類を手当たり次第に送っていたため、婚約相手はだれであろうと構わなかった様子。

 その証拠に、公爵とエリーゼのしたためた手紙にはすぐに返事がもたらされた。提示されたソフィアとの婚約を、喜んで受け入れさせてもらうと。

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