第13話

「とりあえず、詳しい話は中で」


 伯爵に招かれるまま、私たちは足を踏み入れた。そういえば、他の貴族の家に上がるのは初めてかもしれない。私は少し新鮮味を感じながら、伯爵の後ろを進んだ。


「タイミングが良かった。実は今、私の友人が来ているんだ。2人にも紹介しよう」


「は、はいっ」


 友人の方が居られる時に来てしまったとは、何とタイミングの悪い…と思ったけれど、私たちに紹介するとはどういうことだろう…

 と考えを巡らせていたら、目的の部屋に到着したようだ。伯爵が扉を開け、次いで私たちが部屋に入る。

 部屋にはすでに、2人の男性がいた。2人とも、伯爵と同じくらいの年齢に見える。どうやら本当に友人の方のようだ。


「紹介しよう。ワトソンとクリックだ。こっちの2人は、ソフィアさんとそのお付きのターナーさんだ」


 ワトソンさんとクリックさんは、はじめましてと丁寧に会釈をされた。私たち2人も、同じように返す。

 全員が席に着いた後、伯爵が口を開いた。


「ソフィアさんは、公爵とご婚約の予定だった。しかし、それは破談となった」


「こ、公爵の!?」


「な、なんと…」


 それを聞いて2人とも驚いた後、私を見つめる。その視線は、敵を見つめるときのそれであった。まあ、無理もないか…


「大丈夫だよ、2人とも。ソフィアさんは深い訳ありだ。私たちは皆、あの兄妹の被害者なんだよ」


 今度は私たちが驚く。ワトソンさんとクリックさんは、ただの友人ではないようだ。


「私が、説明しよう」


 伯爵はそう言い、私たちの事情を説明してくれた。私が侯爵の元婚約者であり、公爵がきがぐれに婚約を持ちかけてきたこと、私が2人に虐め抜かれていたこと、そしてその果てに婚約を破棄し、ついさっき公爵を蹴り上げたこと。

 2人は驚きを隠せなかったようだが、最終的には私たちの事情を理解してくれたようだった。


「次に、ワトソンとクリックの話だ」


 そこから伯爵は、2人の事情の説明を始めた。要約すると、2人とも伯爵位の貴族だったが、あの兄妹に不当な証拠をでっち上げられ、国に貴族位を剥奪されてしまったらしい…あの兄妹を地獄に落としたいという2人の気持ちは、私に引けを取らないかもしれない…


「…絶対に地獄に落としてやる…」


 憎しみをあらわにした表情で、ワトソンさんはつぶやいた。それに次ぎ、クリックさんも口を開く。


「私だけじゃない…私を信じ、慕ってくれた臣下達を皆…路頭に迷わせてしまった…」


 クリックさんは今にも泣きそうな表情だ。私は反射的に2人に言った。


「…このまま終わらせていいはずがありません。あの2人には、相応の罰が下されなければなりません…」


 皆が、私に注目する。私は皆を鼓舞する様に、声をかける。


「必ず、あの兄妹をぶっ潰してやりましょう!」


 その気合と共に、私たちは作戦会議を始めた。それぞれの持ち寄った情報を互いに精査し、フランツ公爵とエリーゼの弱点を整理していく…

 この作業は朝まで続いたのだった…

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