第3話

――フランツ公爵視点――


「お兄様、私もう限界ですわ…」


「わ、分かったよエリーゼ!もう追い出してしまおう!ごめんねエリーゼ、今まで我慢をさせてしまって…」


「本当に!?ありがとうお兄様!!」



 愛らしいエリーゼとの会話を終え、私は一人自室に戻った。全く、ソフィアにも困ったものだ。私は机に向かって腰掛けながら、頭を抱える。

 これまでにも、ソフィアの言動にエリーゼが振り回されて、私に助けを求めてきたことが何度もある。私は寛大であるから、その度にソフィアをきちんと激しく叱責しているのだが、ソフィアは全く分かってくれず、エリーゼをいじめ続けている。

 私にとって、何よりも大切なのはエリーゼだ。それこそ、公爵の立場やこの国での社会的地位などとは比較にならないほど、はるかに大切と言っていい。そんなエリーゼを、高々平民上がりの下品なソフィアがいびっているのだ。これだから平民女は嫌いだ。少し待遇をよくするとすぐ調子に乗る。あの女の中に眠っているらしい力で、エリーゼにもっと素晴らしい景色を見せてあげられる。そう思い、婚約を名目にここに連れてきたというのに、あの女には全くそのような兆しは無かった。結局は、なんの価値もない女だ。なぜあの女はそんな簡単なことがわからないのか。まさか、私に愛されるとでも考えているのだろうか。まともに夜の相手もできないくせに、何を思い上がっているのか。エリーゼは私の立場を考えて我慢してくれていたようで、それを考えると胸が張り裂けそうになる。ああ、なんと健気なんだ。私は自分がエリーゼに愛されている事に酔いしれながら、笑みが溢れる。同時に、なぜエリーゼに我慢を強いなければならないのかに疑念が湧く。

 …いや、間違っている。私はなぜエリーゼに我慢を強いているんだ?私にとって一番大切なのはエリーゼであり、ソフィアなど論外であるのに、なぜエリーゼを犠牲にしているともとれる行動をとっているんだ?

 私はふと我に帰り、自分を責めた。全く、なんと愚かな行動をしてしまったのか…

 私は冷静さを取り戻すため、コーヒーの支度をする。カップはエリーゼが私に贈ってくれたものだ。ああ、愛おしい。

 カップにコーヒーを注ぎ、少し間を置いて、カップを口につける。このカップで飲むと、味が一段と美味しく感じられるが、これは気のせいではないだろう。

 カップを机に置き一息ついてから、私は考えを戻す。私は寛大であるから、これまではここから追い出すまではしなかったが、今回ばかりは私も限界だ。再三の私の言葉を聞かず、エリーゼをいじめ続けたソフィアの罪は重い。私はソフィアに婚約の破棄と追放を告げることを決意し、部屋を後にした。

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