ヒミツは美味しくいただきます!
たい焼き。
隠し事なんて
「いいかい、みゆ。これは絶対お母さんには言っちゃダメだぞ」
「うん。みゆ、絶対にいわない!」
そう娘と固い約束を交わす。
指切りげんまんをしたあとのふんわり柔らかな娘の手に、小さくて丸い蓋のついたカップを渡す。それは、万が一落とされても大丈夫なようにまだ蓋は開けていない。
俺ももう一つ別のカップとスプーンを二つ持ち、リビングのソファへと座る。
落とさずにきちんと持ってこれた娘の成長に感動しつつ、スプーンを手渡す。
「どれどれ、今お父さんが開けてやるからな~」
「きゃはぁっ! 早く! 早く!」
俺は娘が運んできたカップを受け取り、固く閉じていた蓋をあけてから再び娘へと渡す。
大事そうにカップを受け取った娘は、目がこぼれ落ちそうなほど見開きキラキラと羨望のまなざしをカップへと注いでいる。
「あんまり、大事に握りしめると溶けちゃうぞ。さっ、お母さんが帰ってくる前に『いただきます』しよ」
「うん!!」
「「いただきます」」
普段あいつがいる前では絶対にできないが、あいつが帰ってくる前に娘とちょっとお高いアイスを食っちまうことにした。それも、夕飯前に。
あいつは朝から美容院に行き、友達とランチをして夕飯は家で食べるというので、娘のみゆと大人しくお留守番をしていた。
みゆは今日一日、いい子にしていたからな。俺からのちょっとしたご褒美だ。
そのおかげで俺も余裕をもって家事ができて、こうやってのんびりできている。
俺も今日はパーフェクトといってもいいくらい、家事ができたから自分にご褒美だ。
「つめたくておいしいね~」
娘はアイスと一緒にとろけそうな顔でアイスを頬張っている。
いつもよりもお高いアイスだからな、うまさも一段と感じられるよな。
俺たちはあいつが帰ってくる前にアイスを食べ終わると、ゴミをあいつに見つからないようにダストボックスの奥へと隠した。
「ただいま~!」
「お母さんっ! おかえりなさーい!」
「おかえり~、悪かったな買い出し頼んで」
「いいよぉ。その代わり、昼間はちゃんとやってくれたんでしょう?」
「おぅ、もちろん」
夕飯は総菜でいいから買ってきてくれ、とあいつにメッセージを送っていた。もちろん、アイスを食う時間と証拠隠滅の時間を確保するためだ。
両手に買い物袋を持ったあいつは食材をしまいながら、「すぐ準備するからね、おなかすいたでしょう」とみゆに話しかけている。
みゆも「大丈夫! いい子で待てるよ!」と元気に返す姿をみて、俺たちの秘密は守られそうだと安心してリビングでくつろぐことにした。
「……」
「……お母さん……?」
「みゆ、ごはん前に何か食べた……?」
「……っ! 食べてないよ!!」
「そーお? いつもなら『早く早く~』ってせかすのに」
「今日のみゆは『いい子』だからな、ごはんも『いい子』で待てるんだよなー?」
リビングから二人の会話に割り込む。
娘もうんうん頷いて、こっちに小走りにくると俺の横でちょこんと大人しく座った。
あいつは何か言いたそうな表情を見せたが、すぐ切り替えて夕飯の用意に取り掛かった。
***
「……っ! これだわ……」
買ってきた食材を冷蔵庫にしまっていた気がついた。
みゆの様子がいつもと微妙に違うことがどうにも引っかかって、おやつをしまってある棚をみたけどお菓子が減っている様子はなかった。
本当に今日は「いい子」で待てる日なのかもな~、なんて少し気分よくしたけどやっぱりおやつを食べたみたい。
私があとで食べようと思って、特売日に買っておいたアイスがなくなっている。それも2つ。
みゆはこんな奥まで冷凍庫をみないだろうから、見つけたのはパパね……。
それで、自分だけ食べるのに気が引けてみゆを巻き込んだんだわ。
私もこっそり食べようと思っていたから、アイスを買っていたことはパパにも秘密にしていた。
これじゃ、アイスを食べたことを指摘しても知らぬ存ぜぬされたら追及しきれないわ。
……悔しい~!
結局、怒ることも責める手立ても見つからなかった私は、パパの分の夕飯を少し減らすことで溜飲をさげたのだった。
ヒミツは美味しくいただきます! たい焼き。 @natsu8u
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