第6話 万事休す

 それから、私たちは呆然と日本家屋の中を歩き回った。


 恵一に続いて、海斗も殺されてしまった・・


 居ても立っても居られない気持ちだった。それに、春馬が「じっとしていては危ない。とにかく、入って来た玄関を探して外に出よう」と言うので、私は春馬と美雪と一緒に玄関を探して歩いたのだ。しかし、歩いても歩いても、玄関は見つからなかった。


 それでも、私たちには歩くしか方法がなかった。歩きながら、私は何度も後ろを振り返った。さっきから何かが追いかけてくるような気がしているのだ。


 私の横を歩きながら、美雪が私に言った。


 「茜。やっぱり悪魔っているのよ。ここは悪魔の住む家なのよ。悪魔が私たちを皆殺しにするのよ」


 美雪の眼が異常な光を宿していた。恋人の海斗が死んで、美雪は半狂乱になっているのだ。休ませないと・・それに私もくたくただった。喉の渇きは極限に達している。私は前を歩く春馬に声を掛けた。


 「山川君。止まって・・美雪を、美雪を少し休ませないと」


 春馬が廊下の途中で立ち止まった。キョロキョロと周囲を見回した。真っ暗な中に、春馬のヘッドライトが旋回した。


 「この横の部屋が板の間になっている。ここで少し休もう」


 その部屋は春馬の言うように板の間だった。今まで畳の部屋ばかりだったので、私は意外に思った。


 何に使う部屋だろう・・・


 しかし、私はそれ以上考られなかった。美雪が木の床に崩れ落ちたのだ。私は急いで美雪を抱き抱えた。


 「美雪。しっかりして」


 私は美雪の頭からヘッドライトを取った。スイッチを切って床に置いた。そして、美雪の前髪をかき上げて、額に手を当てた。熱かった。火傷するようだ。それに身体が脱水症状を示している。


 私は急いで美雪の脈を取った。今にも消えそうな弱々しい脈だった。次いで、美雪の乳房の下に耳を当てた。心臓が、かすかで不規則な鼓動を打っていた。


 美雪が危険な状態だ・・水がいる・・


 私は春馬に大声で知らせた。


 「山川君。美雪が、美雪が・・死にそうなの。水、水がないかしら?」


 春馬は私の声に答えなかった。私の耳に春馬の叫ぶ声が聞こえた。


 「誰だ?」


 えっ・・


 私は春馬を見た。春馬が床に座り込んでいる。春馬のヘッドライトが部屋の隅を照らしていて・・その光の中に何か白いものが、うずくまっているのが見えた。


 私の身体が再び恐怖に震えた。


 しかし、私は動けなかった。動きたくても、もう疲労困憊で動けなかったのだ。春馬も同様の様子だった。春馬も疲れ果てて、床から動けないのだ。


 春馬のヘッドライトの光の中で、その白いものが起き上がった。少しずつ、私たちの方に歩いてくる。春馬が呆然とその白いものを見上げている。


 私も春馬も動けない。美雪は倒れている・・


 私の脳裏に、殺された恵一や海斗の姿が浮かんだ。絶望が私を押し包んだ。


 もうだめだ。万事休すだ。私たちもここで殺される・・


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る