第2話 秘密の都市伝説
「さあ。悪魔退治を開始するぞ」
部長の山川春馬の声が闇の中に響いた。私の周りにいる他のメンバーが緊張するのが分かった。私たちの前には古びた日本家屋が建っている。月明かりを背にして、日本家屋の周りを木々が黒々と取り囲んでいた。山中の廃屋だ。
私は腕時計を見た。ちょうど0時になったところだった。私の前にいる川野美雪が震えながら声を出した。
「やっぱり、やめましょうよ。もし、悪魔に魅入られたりしたら、どうするの?」
「バカだな、美雪。悪魔なんているわけないじゃん。悪魔ってさあ、西洋の、キリスト教世界の宗教観が生み出した空想の産物なんだぜ。そんな悪魔が日本にいるわけないだろ」
副部長の影山恵一が海斗に同調するように言った。
「そうだよ。大体、『秘密の都市伝説』なんて、全部、嘘っぱちなんだよ。だからこそ、僕たちが、『悪魔がいる』なんていうバカげた『秘密の都市伝説』の正体を暴こうとしてるんだよ。そうだろ、茜」
恵一が私に話を振った。私はあいまいに答えた。
「ええ」
私は佐郷茜。私たち5人はS大の学生だ。全員3年生で、都市伝説研究会のメンバーだった。
今、街の中はUFOや心霊スポットといった都市伝説であふれている。都市伝説研究会はそんな都市伝説の中でも、特に『秘密』に伝えられている伝説を調査するという同好会だ。誰もが知っているような都市伝説は相手にしない。マニアの間でひそかに語り継がれてきたような『秘密の都市伝説』にスポットを当てている。
そんな都市伝説研究会では、毎年、3年生の部員が何かしらの『戦利品』を残すことが恒例行事になっていた。『戦利品』というのは品物ではない。『秘密の都市伝説なんて、実は根も葉もないでたらめに過ぎない』ということを証明してみせるのだ。4年生になると、みんな就職活動で忙しくなる。だから都市伝説研究会では、3年生が『戦利品』として、そういった”戦果”を挙げて、後輩への置き土産にするということが伝統的に行なわれてきたのだった。
今年の私たち3年生も『戦利品』を何にするか、いろいろと協議したのだが、これといったアイデアが出ず・・結局、都市伝説研究会の部長と副部長でもある春馬と恵一が、「悪魔が住む」と噂されるこの山中の廃屋を見つけてきたのだった。
実を言うと、私たちは『秘密の都市伝説』といっても大したことはないと高をくくっていたのだ。しかし、実際に来てみると、私は足がすくんでしまった。
月明かりの中に黒々とそびえ建つ平屋の日本家屋は、数十年も前から放置されていたという噂の建物だった。朽ち果てて、台風でも来たらたちどころに倒壊してしまうような佇まいの中に、なんとも不気味な雰囲気を醸し出している。元は旅館だったという話なので、今まで宿泊した人間の怨念がまだそこかしこに渦を巻いているようにも思えた。陰々滅々といった言葉がぴったりの廃屋だ。
海斗が言ったように、私も「日本に悪魔なんていない」とは思っているが・・眼の前の日本家屋は、まさに「悪魔が住んでいる」というような表現がぴったりな代物だったのだ。
海斗も恵一もそんな建物に圧倒されたのだろう。口では勇ましいことを言っても、二人の足は止まったままだ。
春馬がそんなメンバーを見て、「チッ」と軽く舌打ちをした。春馬が玄関の引き戸に手を掛けた。事前の調査では玄関には鍵は掛かっていないはずだ。
そのまま、春馬が引き戸を引くと・・ギシギシギシと不気味な音を立てて戸が開いた。春馬が振り返って私たちを見た。もう一度、私たちを促した。
「さあ、入るぞ。ずっとここに立っていても仕方がないだろ」
その声で、ようやく私たちの足が動いた。私たちは、春馬、恵一、美雪と海斗、私の順で・・日本家屋の中に入っていった。
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