第20話 19.2022年 12月
彼女が死んだ。
そんな連絡が来たのは年の瀬迫る日のことだった。
僕は就職活動が思うように進まず、腐っていた。何もしてもしなくてもどうでもいい。そんな気分の時にその一方は告げられた。
最近はめっきり連絡のなくなったサークルの友人から珍しく連絡があったと思ったら、画面に映し出された文字は彼女の訃報を知らせるものだった。
彼女は、十月に渋谷を騒がせた連続通り魔の被害者だった。僕はそれをネットニュースで知った。自身が起こした事件については保釈中だったらしい。どうやら彼女の実家は、僕が聞いていた家庭とは真逆の、いわゆる上流階級らしく、親がかなりの保釈金を払ったとSNSで知った。
その話がどれほど信憑性のあるものかは分からないが、とにかく彼女は保釈中に訪れた渋谷の街中で、見ず知らずの通り魔に刺された。
被害者リストに彼女の名前を見つけた時、僕は彼女に天罰が下ったことを密かに喜んだ。それと同時に彼女の安否が無性に気になった。
ニュースは被害者の安否を正確には伝えない。軽傷、重傷、死亡……そんな言葉を名前の横に記すのみ。彼女の名前の横には重傷の文字だけがあった。重傷とはどの程度なのか。ネットニュースからでは、必要な情報が得られない。
SNSから彼女に関する情報を漁る。何日かして、彼女が重篤な状態ながらも命は取り留めていたことを知った。
僕はその情報に行き着いた時、安堵すると共に、SNSの情報の手軽さに畏怖を抱いた。
オンライン生活はとても便利だ。部屋から出なくてもなんでもできる。食事も生活用品もなんでも揃う。繋がりたい人とは、直接会わなくても意思の疎通ができる。知りたい情報も簡単に手に入る。
だけど、果たしてそれはいいことなのだろうか。
なんとか取り留めていた彼女の命の灯火が消えてしまったことを無機質に知らせる画面の中の小さな文字列。それはなんだかとても軽々しいものに感じられた。
”あいつ、死んだらしいよ”
ただの文字列として彼女の訃報を受け取った僕は、彼女の死を情報としてしか捉えられない。
これがもし直接僕の耳に伝えられたなら、僕はその時どうしただろうか。
そんなことをふと思った。
あんなに思いを募らせた相手がこの世から姿を消したというのに、僕の中には哀しいも悔しいもない。寂しいなんてもっとない。
ただあるのは、彼女が死んだという情報だけ。それは、全くリアルを感じさせないただの情報……
僕は、リアルをリアルとして受け取れなくなっていた。
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