第17話 16.2022年 6月
僕たちを混乱の渦に巻き込んだ殺人ウィルスは、このところパッタリと鳴りを潜め、政府からは、人との距離が取れるならばマスクなどの予防対策も必要ないと言う方針が示された。
しかし、今更マスクを外せないと世間の人々はマスク生活を自ら継続させ、もうすっかりウィルスとの共生に馴染んでいた。
東京へ来てから三度目の春を越し、すっかり引きこもりが板に付いた僕が部屋から出るならば、皆がウィルス対策を行い、尚且つ、ウィルスの脅威の少ない、今、この時なのだろう。
でも、僕にはもう部屋の外へ出なければならない理由がなかった。そんな中、ただただ無意味に時だけが過ぎていく僕の元に、珍しくしつこく連絡を寄越す奴がいた。
サークルへの参加もめっきりと減った僕は、仲間たちとも疎遠になっていたのだが、そのうちの一人が執拗に僕との接触を求めてきた。
少々億劫ではあったけれども、全く人恋しさが無いわけではなかったし、何より、彼の提示した話題が僕を動かした。
僕は文字だけの会話でも良かったのだが、彼は、どうやら文字を打つのが面倒くさいようで、ゲームをしながらの会話を希望してきた。 久しぶりにオンラインのゲームの中で、彼と接触をする。他のサークルの仲間はいない。彼と二人きりで話をするのは、多分初めてだ。
不思議に思いつつも、気恥ずかしい挨拶から始まり、他愛無い近況を話したりして、次第に二人だけの会話に違和感を感じなくなった頃、彼は、言いにくそうに本題を口にした。
彼が執拗に僕に接触を求めてきた理由。それは、彼女についての事だった。
他のサークルの仲間たちもどうやら事情は知っているようだが、もう終わったことなのだから、これ以上事を荒立てることも無いと言っていたらしい。しかし彼だけは、僕に真相を知らせるべきだと動いたのだ。
彼女は四月に入ってすぐ大学を辞めたらしい。正確には、退学になったようだ。
その話を聞いても、僕に驚きはなかった。やはり、大学の授業料が払えなかったのか。そんな事をぼんやりと思ったが、ハタと気がついた。
では、僕が渡したお金はどうなったのだ?
一人疑問に眉を顰めていると、マイク越しに、彼は衝撃の事実を告げた。
彼女は学内の複数の生徒に、金銭の援助を求め、金を貢がせていた。親の入院費、歳の離れた弟妹の生活費、大学の授業料等々。数々の嘘を吐いて。その行為が大学に知られ、退学処分となったのだ。
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