第16話 15.2022年 4月

 彼女と連絡が取れなくなってから、早二か月。僕は大学三年生になった。


 相変わらず世の中は殺人ウィルスとの共存生活を余儀なくされている。しかし、二年の時を過ごしてきた人々は、変わってしまった日々にかなり順応し、新たな変異型が出てきても、それ程騒ぐことがなくなった。


 粛々とマスク生活を過ごし、どこの施設でも入口には、検温器と消毒液が置かれている。世間では、そうすることがもはや当たり前で、それが守られてさえいれば、感染症対策をしていると言い切れると思われているようだった。


 僕の大学でも、感染症対策を取ったうえで入学式が行われた。サークルの仲間たちは、式典を終えた新入生を勧誘するために、校門に張り付くから、一緒にどうかと僕を誘ってきた。だが僕は、それを断った。


 僕は、相変わらず部屋から出ない暮らしをしている。


 それを分かっていながら、仲間たちが敢えて勧誘活動に僕を誘った理由は、多分、気分転換を兼ねてということだったのだろう。


 彼女と連絡が取れなくなってから、塞ぎ込みがちだった僕を何とか励まそうという、彼らなりの気遣いである事は察しがついていたが、僕は、どうにも前向きになれなかった。


 突然始まり、突然終わってしまった恋に、僕は区切りをつけられないでいた。


 あんなに好きだったオンラインゲームも、彼女とのことが思い出され、随分前からやっていない。


 学校へ行けば或いは、彼女に会うことが出来るのかもしれないが、果たして、今更彼女と会って僕はどうしたら良いのだろう。


 今更外で会うくらいなら、もっと早くにこの部屋を出て、彼女と直接話をするべきだったのだ。彼女はずっと僕と会う事を望んでくれていたのだから。


 僕は、一人部屋に篭り、ウジウジとした時間をただ無意味に過ごす。


 授業は相変わらずオンラインで参加するが、基本的には、二年生までにほとんどの単位を取り終えていたので、僕がパソコンの前に座るのは、一日に授業二つほど、三時間くらいのことだった。


 授業が無ければ、無気力に時を過ごすだけなので、腹もそんなに減らない。僕は、食事もあまり頼まなくなった。腹が減れば、食べ残しを少し食べ、食べるものが無ければ、オンラインで渋々頼み、残しては、また後日食べる。


 そんな無気力生活を過ごしていたため、以前家族から指摘をされた贅肉は、いつの間にやら僕から削げ落ち、期せずして、僕はダイエットに成功した。でも、そんなことは全然どうでも良かった。

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