第15話 14.2022年 2月
新しい年が始まり既に一ヶ月弱が経った。今年の正月も僕は実家にも帰らず、相変わらず、一人、自身の部屋で過ごしていた。
年末から世界中で爆発的な広がりを見せていた殺人ウィルスの新たな変異株は、やはり、日本でも猛威を振るい、今は、「まん延防止等重点措置」が広く出されている。
「緊急事態宣言」も「まん延防止」も、僕には関係ない。
だって僕は、この部屋から出ないのだから。
クリスマスに一大決心をした僕だったが、結局、部屋から出ることはなかった。
友人たちから彼女の話を聞いた僕は、疑惑を彼女に問い詰めた。彼女は、その場にいた事は認めた上で、一緒にいたのは友人だと言っていたけれど、オンライン越しの彼女の声は、どこかトゲトゲとしていて、あまり聞いていたくない声だった。
少し前から、僕たちの間にあった溝は、僕の行動により、さらに広がったような気がする。なんとか関係修復を図ろうと、決死の覚悟でクリスマスデートを提案してみたけど、予定があるからと素気無く断られた。
まだ、別れという言葉は出ていないけれど、今の僕たちは辛うじて付き合っていると言うべきなのかもしれない。以前のように密に連絡を取ることも言葉を交わすことも無くなってしまった。
彼女から連絡が来ることは滅多になく、僕から連絡をしても、三回に一回繋がるかという程の関係になっている。僕たちは、このまま、自然消滅を迎えてしまうのだろう。
そんな事を思い始めた頃、珍しく、彼女の方から連絡が来た。
マイク越しに聞こえる彼女の声は、最近のトゲトゲしさはなく、どこか切羽詰まって聞こえた。
動揺をしているのか、なかなか話の要領が掴めなかったが、どうやら、来年度の大学の授業料が払えないと慌てているようだ。
彼女の啜り泣きが、僕の耳に流れ込む。
僕しか頼れないと涙ながらにささやく彼女の言葉は、このところ疎遠気味であったことなど忘れさせるかのように、僕の心を刺激する。
僕は、これまで彼女の力になりたくて、勉強の傍ら、在宅ワークのバイトをしてきたのだ。今がその時だとばかりに、僕は、貯金のほとんどを、啜り泣く彼女から聞き出した、彼女の口座へ送金した。
一刻を争うようなこんな時でも、オンラインで繋がっているからこそ、素早く対応できて、彼女の力になれたのだと、僕は安堵のため息を漏らす。これで、彼女との溝も埋まるだろうと。
しかし、それ以来、彼女と連絡が取れなくなった。
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