第14話 13.2021年 12月

 多くの人がワクチン接種をした結果なのか、殺人ウィルス感染者の数は急激に減少し、このまま終息を迎えるのではと、多くの人が期待をしつつも、ウィルスとの共生にも慣れ始め、脅威を感じなくなっていた頃、海外で殺人ウィルスの新たな変異株が広がりを見せているとニュースが報じた。


 ニュースは、新たな感染拡大に備えて、政府は対策を講じているとしていたが、それは、余り期待できないだろうと、僕は、他人事のように、聞き流していた。


 季節は十二月。自宅に一人籠っているだけの僕の関心は、殺人ウィルスなどではなく、世間の人並みに、年末の一大イベントへと向けられていた。


 巷では、二年ぶりのクリスマスイベントが至る所で開催されているようで、どこもかしこも、盛況ぶりがSNSなどで話題となっている。


 この頃の僕と彼女の間には、小さなズレのようなものを感じていて、オンライン上で話していても、盛り上がらないことがしばしばあった。


 このままでは、僕たちの関係はいずれ終わりを迎えてしまう事になるのではないかと、殺人ウィルス以上の恐怖を感じた僕は、その恐怖を払拭すべく、ある行動に出ようとしていた。


 それは、一年越しのクリスマスデートである。


 正直、自宅から出る事には抵抗があるが、感染者数の減っているこの時期ならば、完全予防をすれば、なんとかなるのではないかと思ったのだ。それほどに、僕と彼女の関係は切迫していた。


 しかし、どの様にして関係修復を図れば良いのか分からず、僕は、サークルの仲間たちにアドバイスを求めた。


 僕が、外へ出ようとしている事に関しては、今更と揶揄われはしたが、概ね好意的に受け止められた。しかし、その理由が彼女とのデートの為だと知るや、友人達の口は重たくなった。


 違和感を感じて問い質すと、仲間の一人が、しぶしぶ、その理由を明かしてくれた。


 彼らの口が重かった理由。それは、彼女だった。


 彼らは、夏休みに海へ行った際に、偶然オリンピックのサーフィンの試合を遠目に観戦する人たちを目撃したのだと言う。その人だかりの中に、彼女がいた。その側には、日に焼けたがっしりとした体格の、いわゆる、自分達とはタイプの違う男がいたらしい。


 恋愛とは縁のない自分達には、それが友人関係なのか、それとも、もっと別の関係なのかはわからなかったから、これまで言えずにいたと言われては、何も返す言葉がない。


 彼らは、僕のことを案じてくれたのだから。

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