第5話 4.2020年 6月
六月になり、ようやくウィルスの感染状況が落ち着いてくると、緊急事態宣言は解除された。人々は、自宅から解放され、それまでの時間を埋めようとするかのように、街に溢れかえった。
しかし、僕には、外出する勇気がなかった。何故ならば、殺人ウィルスを封じたというニュースを目にした覚えがなかったからだ。ワクチンが開発されたわけでもなく、ウィルスを根絶したわけでもない。ただ、感染者数が減っただけなのだ。それなのに、人々は、以前のように、いや、それどころか、以前以上に街中での活動に積極的になっていた。
そんな光景をテレビやネットニュースで目にする度に、僕には恐怖しかなかった。街頭インタビューで、「やっぱり、人出が増えてしまうのは仕方がないことだと思います。みんな、これまで我慢してきましたから」と平然と答えている多くの人たちは、まるで、あの殺人ウィルスに、危機感というものを破壊されてしまったのではないかと思えるほどに、開放感に満ちた笑顔を見せていた。
街中に人かげが戻り、人々はものすごいスピードで、以前の生活に戻ろうとしていた。僕の身近なところでいえば、大学が対面授業を再開した。
授業再開の連絡を大学からメールで受け取ったとき、僕はとても憂鬱な気分になった。別に学校へ行きたくなかったわけではない。今はまだ、対面式授業を再開するには、時期尚早だと思ったからだ。オンライン授業がやっと起動に乗り始めたのに、新しい試みを辞めてしまうなんて、もったいないとも思った。
大学の事務局へオンライン授業を続けるべきだと進言しようかと悩んでいると、授業はオンラインでも受講可能という通達が、次いで届いた。
僕の思いが大学事務局に届いたのか、他の誰かが先に進言していたのか、はたまた、大学事務局は比較的頭の柔らかい人が運営しているのかは、定かではない。けれど、メール一つで、僕が抱えた憂鬱さは解消された。そして、言うまでもなく、僕はオンラインで授業の受講を続けた。
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