第4話 3.2020年 4月

 四月になり、一人の生活に慣れ始めても、緊急事態宣言は解除されなかった。


 そのため大学の入学式は中止された。


 こうして僕の大学生活は、学校の門をくぐらずに始まった。授業は、全てオンライン上で行われた。メールで課題を課されるだけの授業、教授が板書する様子を動画配信する授業、ライブ配信をして、その場で質問にも答えてくれる授業。授業の形式は様々で、それは教授のオンラインスペックを如実に表していた。


 高校までは、学校で行われる対面形式の授業が当たり前だったので、登校時間の発生しない、誰とも空間を共有しない大学のオンライン授業の行われ方には、多少違和感があった。


 しかし、そんな状態にもすぐに馴染んだ。自宅からワンクリックで授業に出席できるということは、なんと有意義なことか。


 もしも、寝坊をして授業開始の五分前に目覚めたとしても、ポチっとするだけで、授業に間に合うのだ。きっと、世の中の大半の大学生は、そんな寝坊し放題生活に染まったことだろう。


 しかし、僕は違った。僕は、決まった時間に起きることを心がけた。ずっと家にいるからこそ、時間にルーズになってはいけないと思ったのだ。


 朝の九時から始まる一コマ目の授業に間に合うよう、毎日七時半には起きた。起きるとまず、朝食を食べた。朝食は、ワンクリックで前日の夕飯と一緒に受け取っていたので、食べるものがなくて朝食を抜く羽目になるという事態には陥らない。


 朝食が終わると、パソコンを立ち上げ、授業が始まるまで、ネットニュースを見る。実家にいた頃は、朝の情報収集はテレビからだった。しかしその生活では、テレビに見入ってしまい、遅刻しそうになるので、一人暮らしをするようになってからは、朝はテレビをつけないことにしていた。その代わり、オンラインで情報収集をするようになったのだ。


 オンラインで授業を受け、空き時間にオンラインで情報収集をし、昼食時に合わせてオンラインで食べ物を注文する。学校へは行けなかったが、オンラインで活動をしている『eスポーツ研究会』に入会し、大学生の醍醐味であるサークル活動も始め、サークル仲間との交流を深めた。


 僕の大学生活は、オンラインのおかげで、それなりに充実していた。

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