第3話 2.2020年 3月

【第一次緊急事態宣言】


 新生活を始めた三月のある日、突然、『都市封鎖』というワードが世間を賑わした。


 外国で発生した新型ウィルスは、あっという間に日本でも猛威を振るうようになり、ウィルス感染による死者が出始めていることは、ネットニュースを見て知っていた。


 それでも、僕はどこか人ごとのように受け止めていたのだが、殺人ウィルスの脅威は、気がつかないうちに、僕の直ぐそばまで迫ってきていた。


 世界各国で都市封鎖が行われ、日本政府もそれに倣うかのように、緊急事態宣言を発出し、人々は、居住地からの移動を制限された。それだけに留まらず、飲食店やショッピングモールなど店舗への営業時間の短縮要請、学校への休校要請、企業へのテレワークという名の自宅待機など、人々はありとあらゆる生活に制限をかけられた。その結果、都市封鎖どころか、人々は、各自の自宅に軟禁状態になり、ほとんどの人が他人との交流を絶たざるを得なくなった。


 初めのうちは、突如として訪れた大型連休に喜んだ人もいたようだったが、それは、ほんの数日のことだった。一週間もしないうちに人々の間には、不満が渦巻き出した。


 それはそうだろう。変わらない生活ほど退屈なものはないのだから。


 人々は、日本政府の制限下で、それぞれが取り得る最大限の行動を取り始めた。それは端的にいえば、オンライン生活派と、オフライン生活派の二極化である。


 人々の多くは、他者との交流を求めてオンライン生活派となったが、世間のしがらみから解放され、各々が身軽になれたことから、オフライン生活を極め始める人も一定数いた。


 僕は、もちろんオンライン生活派だった。上京して早々に、自宅から出られなくなり、新しい僕の居場所を満喫しきれていないことに多少の不満はあったが、それでも、地元よりも格段に整ったオンライン環境の便利さに僕は概ね満足していたのだ。


 重い荷物を運ぶ必要のない、ネットショッピング。食べたいものは、ワンクリックで自宅へ届く。暇つぶしに始めたオンラインのサバイバルゲームでは、友達も出来た。


 上京したばかりの僕の生活は、全てが以前の生活と違った。そのため、自宅軟禁の状態であっても、僕に不満はなかった。

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