第43話 二転三転する転生の魂

 「こっちだ!」


 「一体どういうこと? ふたりとも、何かいい策を思いついたのですか?」


 階段を上がりながら麗華が、呂布の背中に疑問を投げる。


 「ここの屋上に、衛星のアンテナがあったわよね? アタシ、呂布が何をしたいのか分かっちゃったかも。ふふふ」


 「この兜を使って奴らのレーザー光線と同じ波長を作り出す。そしてそれを周囲の空間に拡散するんだが、そのためにこの衛星アンテナが必要だ。と同時に波長を輻射装置で周囲に伝達させるために、このアンテナで作られる磁場を利用する。つまり、こっちの波長で奴らの波長を打ち消すことができれば、天を覆うレーザー光線の布陣を打破できるというわけだ」


 「レーザーの布陣って、言い方……」


 麗華はおかしそうに笑っていたが、内心では驚きの念を抱かずにはいられなかった。


 「ご主人様、まるで呪文みたいて俺にはさっぱり……」


 「呪文じゃなくて、これは科学よ!」


 アイクが嬉しそうなまなざしを呂布に向けた。


 屋上に出ると、なおもヘリコプターからレーザーが照射され続けていた。ヘッドギアを抱えた呂布が、一直線にアンテナの下を目指す。


 「任せろ! こいつは壊れてしまったが、まだエネルギーを放射できる。うまく波長を調整できれば、あのいまいましいレーザー光線を打ち消せるんだ」


 ほどなくして呂布が高々とヘッドギアをかかげた。


 「できたぞ!」


 「本当にあの呂布なのかしら?」


 麗華が目を丸くする。

 

 呂布がサッと目で合図を送ると、レッドは呂布の意図を察しひざまずいた。


 「赤兎!」


 呂布は数歩の助走をつけレッドの肩に足をかける。そのタイミングを見計らうようにレッドが立ちあがり、呂布の身体が宙に浮いた。勢いに任せて呂布がヘッドギアをアンテナに引っかけようとした瞬間だった。ヒュッヒュッヒュッ、という音とともに3発の銃弾が呂布に襲いかかる。とっさに身体をひねり、2発はヘッドギアで防いだが、そのままバランスを崩して倒れた。


 レッドが落ちてくる呂布を受けとめようと跳躍する。見れば呂布は口から血を吐き、胸のあたりからはドクドクと血が流れ出ていた。


 「また元に戻った……」


 呂布は、またしても己の身体に戻っていた。


 「まだ悪あがきをするか! チャンスを与えてやったというのに、どうしようもない奴らだ」


 ロバートの声が、スピーカーを通して聞こえてくる。


 「麗ちゃん!」


 全員が叫びながら、本物の麗華に駆けよった。


 レッドの腕の中でぐったりとしている麗華の周りが血の海と化している。


 「くそっ……どうしてこうなる!」


 呂布は両の拳を握りしめ、天を仰いで叫んだ。まるでこれまでの怒りをすべて吐き出しているかのように、その声は長く響いた。呂布は、地面に転がっていたヘッドギアを拾いあげると、「ハッ!」という短い気合いの声とともに大きく跳躍する。ヘッドギアが、アンテナにかかげられたとたん、皆の命を脅かしていた紫色の光りが消えた。


 「おのれ! 全員撃ち殺せ!」


 作戦の敗北を目のあたりにしたロバートが逆上する。声を合図に傭兵らが一斉に銃を構え、屋上に向かって激しく発砲を始める。呂布は左手に銃を、右手に電子チェーンを持ち、皆の前に立ちはだかった。


 「みんな早く逃げろ! 奴らは俺が始末する」


 その時、ロバートのイヤホンから震え冷たい声が鼓膜に届いた。


 「ロバート、すぐに攻撃をやめろ! 生け捕りにしろといったはずだ」


 「こ、これはやむを得ず……」


 「今度また命令に背けば……。私の性格はよく分かっているはずだ」


 そこで一方的に音声が途切れ、ロバートの心に計り知れない恐怖を刻んだ。なんとか気を取りなおしたロバートは、部隊にいくつかの命令を下す。ほどなく、ヘリコプターのドアが開き、そこから夜の闇に青い霧が広がった。


 「今度は何なの?」


 麗華の応急処置を終えたアイクが、汗をぬぐいながら上空を見あげる。呂布が電子チェーンを振るうと、まるで大きな扇風機のように、霧が押し返された。しかしそれも一時しのぎにしかならない。青い霧は容赦なく呂布たちに降りかかり、呂布とレッドは頭を抱えた。


 「うっ……、これは何の薬だ?」


 まるで身体の中から魂を引き抜かれるような感覚に襲われ、脳天に激痛が走る。


 「頭が……クラクラする」


 レッドも苦しそうに頭を抱えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る