第41話 ふ……服を着てください!!

 しばらくして煙がおさまると、なんとも奇妙な光景が広がっていた。すすで真っ黒になったレッドが、放心状態で半分残ったヘッドギアを持っている。そして呂布はといえば、コアラのように両手両脚でレッドにしがみついていた。


 かつて呂布を背に乗せ、幾度となく戦場を駆け回っていたレッドは、まさか女性の姿になり、怯えて震える主をこうして胸に抱く日を迎えようとは、夢にも思っていなかった。鼓動は高鳴り、今までとは明らかに違う感情がレッドの胸の奥を締めつける。レッドは呂布の身体に両手を伸ばし、その細い身体を思いきり抱き締めた。


 「ご主人様……。安心してください。このレッドが命に代えても、あなたをお守りします」


 麗華は抱き合うふたりに突進し、レッドの胸から呂布を引きはがす。


 「離れてください!!!」


 爆発の影響で服が吹き飛んだのだろう。ほとんど半裸ともいえる、あられもない格好で己の姿をしている呂布に、麗華はあぜんとした。


 「ふ……服を着てください!!ジェイソン、レッド! すぐに目を閉じて!」」


 われに返った麗華が、大声で叫ぶ。ジェイソンとレッドは、おとなしく両目を塞いだが、ちゃっかり指の隙間からのぞいていたのは言うまでもない。そして、ふたりしてアイクを指さす。


 「彼はいいんですか?」


 異口同音の質問を投げかけられたアイクは、余裕の笑みを浮かべ、しゃなりしゃなりとモデルのように進み出てきてポーズをきめる。


 「このアタシとむさくるしい男どもを一緒にしないで!」


 麗華はふざける3人組を無視して、呂布の手を引っ張った。


 「早く着替えてきてください!」


 呂布は麗華の身体をまじまじと観察している。


 「なぁ、この身体は細すぎやしないか?まぁ乳房はけっこうある方だが、腰あたりはもう少し肉付きの良い方が俺は――」


 「早く上に行きなさい!!!このバカ!!殺されたいの!?」


 麗華は口から火を噴きそうなほど怒り狂った。目を覆うことも忘れ、麗華の裸に見とれていたジェイソンとレッドの鼻から、つーっと鼻血が垂れる。


 呂布は、ズタズタになった服の裾をまくりあげ「あー、こわいこわい」とブツブツ文句をたれながら階段を上がっていった。


 しばらくすると、髪をひとまとめにし、ピンクと白のハイブランドのスポーツウェアに身を包んだ呂布が、リビングに戻ってきた。美しい身体のラインが引き立つ洗練されたコーディネートである。


 「どうだ? なかなかいいチョイスだろ?」


 呂布は得意げにポーズをとる。


 「上品な服ならいくらでもあるのに、よりによってスポーツウェア……」


 「あら、いいじゃない!」

 「よくお似合いです」

 「ステキです」


 麗華以外の3人は、そろって親指を立てる。


 「アイクのせいよ!あのヘッドギアで 呂布に色々学ばせちゃったから、どんどんつけあがってるわ……」


 「ええそうね」


 適当に受け流したアイクは、ジェイソンたちとしばらく呂布のコーディネートを褒めたたえていた。


 「ふあ~~」


 麗華が眠そうにあくびをした。


 「今日は本当に疲れました。2階に部屋がたくさんあるから、みんな適当に休んでください」


 長い1日が終わり、急に睡魔が襲ってきたようだ。


 「社長」


 リビングを出ようとした麗華をジェイソンが呼び止める。


 「お休みするのはまだ早いかと」


 「どうしてですか?」


 麗華が眉をひそめる。


 「僕が知るかぎり、ロバートは収穫のない戦いには挑みません。それに村越にも成果をアピールする必要があるので、これで諦めるとは思えなくて……」


 ジェイソンは記憶をたどるように、人さし指でアゴをこすっている。それを聞いて麗華は、思案顔で黙り込んだ。


 (確かにこのままだと埒が明かないわ……)


 突然、麗華がまっすぐに前方をにらみ、立ちあがる。


 「やっぱり叔父さんのところへいって、はっきりさせた方がいいですね」


 「ついにこの日が来たか! 俺も一緒に行くぞ」


 呂布は喜び勇み、大股で麗華に歩み寄る。手にハンガーを持ってはいるが、戦場で敵に対峙する武将のような勇ましさがある。


 「曹操め! この期に及んでシラを切るようなら、その真っ黒な心の臓をこのげきでえぐり出してくれるわ!」


 ドアを開けようとしていた麗華は、あきれた顔で振り返る。


 「それはハンガーです……。元の場所に戻しておいてくださいね」


 突然、窓から射し込んできたまぶしい光の束が、麗華と呂布を照らした。


 「何これ?」


 手のひらで目を覆いながら麗華が叫び声をあげた。

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