第24話 ライオンとの死闘!!!

 「レッド」のコールを浴びる赤い髪をした青年の鍛えあげられた筋肉が、黄金こがね色に輝いている。ただ、呂布たちに向けられた背中には、大小の傷痕が無数にある。古そうな傷から新しいものまで入り交じっているが、どれも急所は外れている。ただし首の傷口だけは恐ろしいほどの深手で、これだけの致命傷を負い生きていられることが不思議なくらいだった。


 今まさに始まろうとしているレッドとライオンの死闘への期待で、観客のボルテージは最高潮に達した。それとは対照的に、青年は落ち着きはらっている。ライオンを見つめる目には、粟粒ほどの恐れもなく、底知れぬ覚悟と勇気が透けて見える。その視線の先で、筋骨隆々の体躯に黄金の毛皮をまとった獣が、うなり声をあげて狩りの本能を爆発させた。


 突然、ライオンがレッドに向かって突進し、観客が一斉に雄叫おたけびをあげた。次の瞬間、俊敏しゅんびんに身体を反転させライオンの攻撃をかわしたレッドは、その胴体を下から持ちあげ、ドスンとマットにたたきつけた。ライオンは口から鮮血を吐きながらも、野生の習性で立ちあがり牙をむいている。しかし、レッドはすでに動き始めていた。軽く助走しながらパンチを繰り出すと、ボフッという鈍い音とともにライオンが倒れた。それをすかさずマットに押さえつけ、拳を振りあげた瞬間だった。


 カーンと高らかに試合終了のゴングが鳴る。


 すぐにレッドはライオンから飛びのく。すると、どこからか登場したレフリーが、興奮気味にレッドの右手をつかんで高々とあげた。


 「本日の勝者はーーーーー、レッドーーーーー!!!」


 興奮のあまりマイクをにぎる手が震え、声も震えていた。


 ───レッド! レッド! レッド!!!


 場内に割れんばかりのレッドコールが巻き起こる。レッドが汗をぬぐおうと、左腕を持ちあげた瞬間、その動きがとまった。レッドは汗をぬぐうことさえ忘れて、観客席のある人物に目を奪われていた。


 (あれは……)


 腕をつかむレフリーの手を振り払い、その人物から目を離さないようにしてリングを駆けおりた。レッドのただならぬ気迫に押された群衆が左右に移動し道ができる。彼がどこに向かっているかは分からないが、ライオンを倒した男の前にたちはだかる勇気のある者など、いるはずもない。


 この時、麗華はレッドの異変にまったく気づいていなかった。さっき自分たちを拘束したふたりの男に気を取られていたのだ。後方には、同じような服装をした仲間とおぼしき男たちも数人いる。彼らもリングではなく客席に目を走らせている。


 「いたぞ! あそこだ!」


 太った男が麗華と呂布のほうを指した。


 「見つかった、逃げなきゃ!」


 麗華は呂布の袖口を引っ張ったが、呂布は微動だにしない。その視線はレッドの首の傷に釘づけになっていた。


 呂布の頭の中に、記憶の波が一気に押しよせる。あの日、白門楼の刑場で愛馬の赤兎が、首に同じような傷を負っていた。


 「何を見ているの? 早くいきましょう!」


 麗華は焦るが、あっという間に男たちに囲まれた。しかし呂布は目を見開いたまま、その場を動こうとしない。


 「てめえらは袋のネズミだ。観念しろ!」


 太った男がすごむ。


 「ここを誰の縄張りだと思ってんだ」


 痩せた男が続ける。


 (縄張り?何を言っているのかしら? ここは私の土地ですけど?)


 麗華は心の中で毒づく。


 太った男と痩せた男は、それぞれ麗華と呂布に手を伸ばすが、その手を誰かにつかまれる。レッドだった。


 「小僧、邪魔するな……ギャッ!」


 腕をひねりあげられ、悲鳴をあげたとたん、ふたりまとめてレッドに蹴り飛ばされた。レッドは呂布の姿をした麗華に鼻を寄せてクンクンとにおいをかぎ、何かが違うとつぶやく。


 「キャッ!ちょっと…やめてください!」


 麗華はひそかに自分の腕をにおってみる。


 (毎日シャワーを浴びてるのに、そんなに臭いかしら?)


 レッドは振り向き、呂布に鼻を寄せる。


 「懐かしいにおいだが……」


 今度は不思議そうに首をかしげた。そんなレッドに呂布が何かを言いかけた時、3人は再び男たちに囲まれた。

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