第23話 地下への秘密のダンジョン

 太った男がそう言って呂布の縄を解いた数秒後、ガツンと鈍い音がして数本の歯と血しぶきが宙に舞った。素早く横飛びをした呂布が、相手のあごに頭突きを食らわせたのだ。


 「この野郎!」


 痩せた男が拳を固めて呂布に殴りかかる。わずかに頭を傾けて拳をかわした呂布は、なめらかな動きで相手の足をはらう。痩せた男が地面に倒れたすきに、そばに転がっていた棒を拾って、太った男もろとも激しく殴り始めた。


 「やめなさい」


 このままでは男たちの命が危ういと判断し、麗華は声をかけた。呂布はふたりを縄で縛りあげると、麗華に歩み寄り縄をほどいてやる。


 「あなた、ほんとに強いんですね…!」


 「ふん!当たり前だ。それにお前のことを守ると誓ったからな。さぁ、行くぞ!」


 麗華は大手をふって立ち去ろうとした呂布の襟を瞬時に掴んだ。


 「待ってください。私が先に行きます。このビルに関しては、多少の土地勘がありますから」


 「何かあったらどうする?俺の方が強いのだから、俺が先にいく」


 「さっき、あなたもつかまったでしょう?」


 「そ……それは、不意打ちだからだ」


 「また不意打ちされたらどうするんですか?」


 「それは…」


 「静かに!」


 せっかく反論しようとしたのに、麗華の鋭い一声に阻止された。


 「私が前を歩くから、ついてきてください。地下への階段を探します」


 呂布は、言われたとおり渋々麗華のあとについて歩く。ふたりは地下へと続く階段を探したが見つからない。通路が複雑に入り組んでおり、まるでダンジョンのような造りになっていた。


 その時、非常ドアの入口で呂布が足を止めた。


 「聞こえたか?」


 呂布が耳をピクリと動かす。麗華が頷くと、呂布は非常ドアの入口に手をかけ、ゆっくりと扉を押した。扉の先には地下へ続く暗い螺旋らせん状の階段が、とぐろを巻いている蛇のように、どっしりと鎮座していた。


 呂布と麗華が慎重に階段を降りていくと、急に視界が開け、豪華な体育館のような巨大な空間が現れた。無数のスポットライトによって隅々まで明るく照らされ、ここが地下であることを忘れさせる。麗華らが開けたのは、客席に近い扉だったようだ。満員の観客席が興奮の渦に包まれ、コールが巻きあがっている。


 「レッド、レッド!!!」


 全員が顔を上気させ、レッドと叫んでいる。


 場内にさっと目を走らせた麗華は、トランシーバーを持つスタッフを見つけ、彼らに気づかれないよう呂布を引っ張って席に着く。


 ほどなくして会場が静まりかえり、観客たちが席に座る。視界を遮っていた前列の観客の背中が消え、麗華はここが体育館ではないと確信した。


 「リング……?」


 多角形の舞台がフェンスで囲まれている。ここは秘密の地下格闘技場だったのだ。驚くべきことに、マットの上では赤い髪の青年がライオンと対峙していた。

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