第22話 廃墟のビルに潜むもの…

 麗華は呂布に顔を向けて尋ねた。


 「呂布はいくら強くても、さすがに疲れていますよね?」


 「いや、一緒に行く。さっき守ると約束した」


 麗華の顔が再び赤く染まる。感情の起伏の変化に、麗華自身も戸惑いを隠せない。


 「あ……ありがとうございます。嬉しいです」


 バックミラーで2人の様子を観察していたジェイソンは、にわかに殺気立ち、勢いよくハンドルを切った。麗華とアイクが思わずドアハンドルにつかまる。麗華が呂布の顔を照れた様子で盗み見た。


 「呂布は不思議な人ですね。帰ってもいいのに、私を守るだなんて……」


 「お前がいなかったら、帰る意味がないからな」


 「それはいったいどういう意味で……?」


 「はい!そこまでです。もう間もなく西区に着きます!」


 ジェイソンが再び2人の会話に割り込んだ。


 ◇


 数分後、麗華たちは西区の未完成ビルに到着した。おおむね建物は完成していたが、細かな作り込みができていない。それに加え、未開発の郊外に立地しているため街灯が整備されておらず、通行人の姿もない。


 「ジェイソンとアイクはここで待っていてください。私と呂布で行ってきます」


 麗華はビルから少し離れた場所に車を停めるよう指示し、車をおりた。ジェイソンが麗華の後に続く。


 「私も一緒に参ります」


 「いいえ、人数が多いと目立つから、ふたりはここで待機していてください」


 麗華は呂布が装着していたイヤホンを取り、アイクに手渡した。


 「アイク、これでよろしく頼むわね」


 「麗ちゃん…本当に大丈夫なの?アタシ、心配だわ……」


 「俺がいれば心配無用だ。この女は俺が責任をもって守る」


 呂布が自信たっぷりに胸をたたく横で、麗華が照れた顔で呂布の服を軽く引っ張った。


 「さぁ、早くいきましょう。宿敵の曹操を捜してるんでしょ?」


 「ここにあいつがいるのか!?曹操、首を洗って待っていろ!」


 そう叫ぶと、呂布は麗華に続いて慌ただしく車をおりた。


 ◇


 数百メートルほど歩くと、ビルの入口に着いた。


 (叔父様はこんなビルを守るために、わざわざ取締役たちの前で私の意見に反対した……。ゼウス社の村越と一緒に、何を企んでいるのかしら)


 麗華はビルを見あげ、思考を巡らせる。


 「おい、地下から音が聞こえるぞ。魔物が巣くっているのではないか?」


 呂布が耳をそばだてる。


 (魔物? 地下? まさか地下に誰かいるの?)


 にわかには信じられなかったが、麗華は唇の前で人さし指を立てた。


 「シッ! 魔物に気づかれるかもしれません」


 「俺が退治してくれるわ!」


 その時、ヒュンヒュンという空気を切るような音が聞こえた。麗華は腕に刺すような痛みを覚えた。突然、目の前が真っ暗になりその場に倒れ込んだ。


 (麻酔銃?)


 意識こそ失っていないが、思うように手足が動かせず、舌がしびれて声を出すこともできない。次の瞬間、何者かに麻袋に押し込まれる。呂布も同じように麻袋に押し込まれるのを、目の端でとらえた。


 暗闇の中、呂布とともにどこかに転がされたことは分かった。アイクの声が耳に届いたが、返事ができない。アイクは何度も呼びかけてくる。そこで麗華は靴のかかとをリズムよく床に打ちつけた。


 車内で待機していたアイクは、瞬時に意味を理解した。


 「これ……モールス信号……警察に通報しろって? オッケー待ってて!」


 麗華と呂布は、どこか別の場所に運び込まれた。数分後、袋の口が開けられ視界が開ける。窓のない部屋だった。さっきの呂布の話から、ここが地下であることは想像がつく。麻酔の影響はほとんどないが、後ろ手に拘束されていて身動きが取れない。


 麗華としては、恐怖に震えるふりをして警察が来るまで時間稼ぎをするつもりだった。しかし呂布の辞書には「恐怖」の文字はなく、目の前にいるふたりの男をギロリとにらむ。ひとりは、やけに太っているが、もうひとりは、やけに痩せている。


 「魔物ではなく人だったのか! この俺様をしばるとはいい度胸だ。命が惜しけりゃ、さっさと解放しろ!」


 男たちは、ヘラヘラと笑う。いくら威勢のいいことを言ったところで、呂布の外見は、かよわい女性なのだ。


 「やけに元気のいいネエチャンだな。さっきは分からなかったが、よく見るといい女じゃねえか」


 太った男がゲスな笑みを浮かべる。


 「俺たちといいことしようぜ」


 痩せた男もそれに続く。


 「手を出したら許しません! その身体は私のものです!」


 麗華が思わず口を挟む。


 「こいつ、お前の女か?よし、それならそこで黙って見てろ!」

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