第21話 初対面で肉体関係に!?記者の鋭い質問

 呂布の爆弾発言を受け、一瞬、場内は水を打ったように静まりかえったが、次の瞬間、記者たちが次々に質問を投げかけた。


 ───おふたりの間に肉体関係が?


 「それなりに」


 ───おつきあいは、いつからですか?


 「数日前」


 ───初めて会ったのは?


 「数日前」


 ───初対面で肉体関係に?


 「そうだ」


 ───そんな発言をして、あとが怖くないのですか?


 「怖い? これまで何かを怖いと思ったことなどない!」


 「プライベートな質問は、お控えください! 会見は以上で終了させていただきます」


 焦ったジェイソンが、マイクを奪い早口で告げる。呂布も麗華に守られながら会場から出たが、当然、記者たちも特ダネを拾おうとあとに続く。その後ろを、数人のボディーガード風の屈強な男たちが追っていった。


 会見場の片隅に、この一部始終を撮影していた記者がいた。その男は、ライブ配信が中断されたあとも、階上のVIP会議室に映像を送り続けていたのだ。


 ◇


 VIP会議室では、スーツ姿の男性がふたり、酒を飲みながらディスプレーを見つめている。一方には、北条グループ会長の北条宗徳ほうじょうそうとく、もう一方には、ゼウス社CEOの村越宗信むらこしそうしんが親密な様子で肩を並べて座っていた。そのかたわらには、軍人風の大男が数人ひかえている。


 「どう見る?」


 先に口を開いたのは村越宗信だった。


 「おもしろい」


 北条宗徳がグラスを手に取り、酒を口の中へ流し込んだ。


 ◇


 車内には重苦しい空気が充満している。いつものように運転手を務めるのはジェイソンだ。アイクは助手席で動画のチェックに忙しい。後部座席には呂布と麗華が並んで座っている。呂布は嬉しそうに麗華の方を向いた。


 「どうだ? さっきの俺は完璧だっただろ?」


 「どこが完璧ですって……?」


 麗華は怒りに肩を震わせながら、声を絞り出した。


 「やはり俺は文武両道で……イテッ!」


 突然、脚を蹴られた呂布が顔をしかめる。


 「誰があなたと肉体関係があるっていうんですか! よくも私の清純なイメージを壊してくれましたね!さっきのドキドキを返してください!」


 「待って麗ちゃん。ちょっとこの動画の弾幕を見てよ。みんな、あんたのことを褒めてるわ」


 麗華はアイクからスマホを受け取った。さっきの一幕が、早くもショート動画に編集されており、視聴回数もみるみるうちに増えていく。


 「麗華社長かっこいい!」「正直だわ~」「これこそが情報の透明性だ。きっと株価も上がるだろ?」「ボディーガードの筋肉に惚れた!」「社長は誘拐されたのよね? マッチョな彼が助けたに決まってる!」「うらやましい! 私にも最強のボディーガードを!」


 これらのコメントに「いいね」の嵐が吹き荒れている。やがて事実にネット民の妄想が加わり、独創性が増していった。


 「ボディーガードと一緒なら安心よ」「美人社長とイケメン用心棒」など、ラノベのタイトルのようなコメントが量産された。


  麗華は腕時計を見た。あと数分後にはアメリカの株式市場があく。アプリを開くと、すでに取引は始まっており、北条グループの株価は9点9パーセント上昇していた。株式市場というのはゴシップの影響を大いに受けるものだが、結局は実力がものをいう世界なのだ。


 「このようなネタで株価が上がっても少しも嬉しくありませんね……。あ、ジェイソン、そこを左に曲がってください」


 「社長、別荘に戻るなら右折ですよ」


 「例のビルを見に、西区に行きたいのです」


 「わざわざ未完成のビルを見に行くのですか?」


 「少し気になることがあって…」


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