第19話 渦巻く陰謀。首謀者はだれ?
呂布はそんなふたりを気にもとめず、麗華の言葉を一語一句正確に繰り返す。
「一刻も早く、社会と株主の信頼を取り戻すために、2点の緊急措置を実施します」
少し息を吸う。
「第1に、記者会見を開き私の健康状態が、きわめて良好であることを表明します。第2に、資金繰りの問題を解決するために、工事が頓挫している西区の未完成ビルの一般競争入札を行います」
会議室に拍手が鳴り響く。北条宗徳が手を上げると、会議室は再び静寂に包まれた。
「記者会見は早いほうがいいだろう。今夜でどうかね?」
呂布は、北条宗徳の発言に一瞬嫌悪の表情を浮かべたが、そのまま言葉を続ける。
「ええ、今夜で結構です」
すぐさま表情を消し、ロボット状態に戻り答えた。
「では決まりだ。しかし第2の措置には賛成できない」
「なぜですか?」
「政府は来年、西区の大規模再開発計画を発表する。そうなれば、あの未完成ビルの価値は少なくとも今の50倍に跳ねあがるだろう」
「ですが大規模再開発には東区も名乗りをあげており、西区よりは東区に分があるという話もあるようですね」
ディスプレーの中の呂布が淡々と返す。
「さすが麗華。よく調べているな」
呂布は自分が何を言っているのかさっぱり分かっていないが、ひたすら麗華の言葉を繰り返す。
「やはり未完成ビルからはなるべく早く手を引いて、目の前の資金問題を解決することが先決かと。そうすれば新たなプロジェクトを始めることもできますので、将来的に……」
「新たなプロジェクト?」
北条宗徳が冷ややかな表情で言葉を遮った。
「1年で50倍になる西区のビルに匹敵する儲けが出せるとでも?」
取締役らは、そうだそうだと一斉に首を振り口々に同意を示す。
───会長の言うとおりですよ。
───私は会長に賛成します。
「黙って聞いていれば……!!この無礼者め!」
突然、呂布がテーブルをたたいて立ちあがる。
「失礼しました。これより社長は休憩に入らせていただきます。では今夜の記者会見で」
すかさず画面に割り込んだアイクがカメラの電源を落とす。
◇
北条宗徳は、真っ黒になったディスプレーを見つめながら、ニヤリと口角を上げると腕時計の通話ボタンを押した。
「私だ。やはり君の言ったとおり、麗華と呂布は入れ替わっているようだな」
通話口の向こうから、村越宗信の押し殺したような笑い声が聞こえてくる。
「ああ、こちら側には優秀なスパイがついているからな。ククク……」
2人は同時に満足そうにうなずくと、通話を切った。
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