第18話 悪夢のオンライン会議、幕開け
北条グループの本社ビルの前。
麗華が呂布を担いで外に出てきた。そして停車中の車に呂布を押し込む。呂布は、そうはさせまいと必死で抵抗するが、体格差がありすぎるため太刀打ちできない。
「俺の復讐をなぜ阻む! なんとしてもあの憎き曹操を殺さねばならんのだ!」
「あの方は私の叔父さんで、曹操ではありません。たまたま似ているだけです!」
怒鳴り散らし、なおも車から出ようとする呂布を、麗華は身体を張って遮る。呂布は聞く耳を持たず、両目を血走らせて本社ビルをにらみつけた。
「いいや奴は曹操だ! この俺が宿敵を見間違うものか! 俺は奴を殺す! 邪魔だてすれば容赦せんぞ!」
「いいかげんにしてください!こんなところで大騒ぎをしてたら、また誰かに通報されてしまいます!」
麗華もだんだんいら立ちを募らせ、表情が険しくなる。麗華が手を突き出し、車から出てこようとする呂布をとめていると、本社ビルの玄関前にいたふたりの警備員が、騒ぎに気づいて近づいてきた。そのうちのひとりが、呂布に向かって丁重にたずねた。
「社長、大丈夫ですか? 何かお困りでしたら通報いたしましょうか?」
「お騒がせして申し訳ありません。私は社長のボディーガードの溝呂木です。社長は少し興奮しているようなので、これから病院に連れていきますのでご心配なさらず…」
麗華は警備員の前に進み出ると、爽やかな笑みを浮かべた。その時、ようやくアイクとジェイソンがビルから出てきた。麗華はほっと胸をなでおろすと、早く車に乗るようアイクとジェイソンをせかした。
ジェイソンが車を発車させると、アイクがオンライン会議について説明する。
「オンラインだから、オウム返し方式で乗りきれるわ。呂布が麗ちゃんとしてうまく社長を演じられれば、絶対に気づかれない。アタシとジェイソンもついてるからね」
「アイク、あなたは天才です!ナイスアイディア!」
目を輝かせる麗華とは対照的に、呂布はきょとんとした表情を浮かべている。
「オウム返しとは何だ?」
「あとで説明します」
ジェイソンは不安で顔を曇らせながら(いつも面倒ばかり起こす呂布に務まるのか?)と心の中でつぶやいた。
◇
1週間後
海辺の別荘の書斎には緊迫した空気が流れていた。パソコンの前にはロボットのようにカチコチになった呂布が緊張の面持ちで座っている。画面に映り込まない位置に麗華が陣取り、そのかたわらでアイクとジェイソンが試験監督のように目を光らせる。
「あなたは私の言ったことを繰り返せばいいだけですからね。一言一句漏らさずに」
「大船に乗ったつもりで俺に任せろ」
麗華が真剣な顔で念を押すと、呂布は自信たっぷりに胸をたたいた。毎度のことながら、この自信は一体どこから来るのかと、その場にいた全員が、あきれ顔で呂布を見つめた。
ついにオンライン会議が始まった。麗華は呂布を見つめ、イヤホンで本社会議室の様子をモニターしながら、小声でささやいている。
「会長、取締役各位、先日は大変失礼しました……」
呂布は無表情のまま、オウムのように麗華の言葉をまねて声に出す。
しんと静まりかえった北条グループ本社の会議室では、会長の北条宗徳が興味深げにディスプレーに映る呂布を見つめていた。そばで見守るアイクは、呂布の真剣なようすに、満足そうにうなずいている。ジェイソンは、呂布がまた豹変するのではないかと、硬い表情でいつものハンカチを握りしめていた。
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