第14話 身体が元に戻った!?

 庭から戻ったジェイソンが、何くわぬ顔でリビングに入ってきた。

 

 呂布の姿をした麗華は、両手でアイクの袖をつかんで甘えるように揺らしている。アイクも呂布のたくましい手に自分の手を重ね、執拗になでさする。


 「麗ちゃん……。言いたいことはよく分かってる。なんてったって使用人もいない大きな別荘に男とふたり……」


 麗華は、首がもげそうなほど激しくうなずいた。


 「さすがアイク。わたしの親友!」


 戻ってきたジェイソンを見て、麗華はさらに目を輝かせた。


 「ねぇ!ジェイソン、今日はあなたもここに泊まってください」


 「ご安心を、社長。私もちょうど独身の男女をふたりきりにするのは危険ではないかと心配していたところです。社長からお申し出くださったからには、今夜は社長を全力でお守りします!」


 すでにパジャマ姿の呂布は三人の会話を気にするようすもなく、生理用ナプキンの研究に余念がない。


 「これは布…?なぜこれが血を吸うのだ?」


 一人ブツブツと首をかしげている。


 アイクは麗華の見事な筋肉を指でつつき、うっとりとした表情でその肩に頭をもたせかけた。

 

 「麗ちゃん……。あなた、本当に良い筋肉してる…。特にこの上腕二頭筋から大胸筋にかけてのラインなんて……ああッン!!」


 「アイク!あんまりベタベタしないで!」


 煩わしくなった麗華はアイクを突き放すと、立ち上がった。


 「それでは、部屋割りを発表します」


 そう言って、麗華は一方的に各自の寝床を決めた。


 ◇


 麗華は、呂布をゲストルームに案内した。ドアを開けて呂布を中に入れると、ベッドを指差した。


 「今夜は、ここで寝てください」


 呂布はうなずくと、手に持っていたナプキンを陳嬋の目の前で振った。


 「この布はひとつで足りるのか?この身体は股からの出血量が多く……」


 「いい加減にしてください!あなたは女心というものが分からないのですか?三国第一の戦神が、この程度の男だとは――」


 呂布はニヤリと笑みを浮かべると、麗華の顔に手を伸ばすと、顔をグッと近づけた。


 「俺がどんな男なのか、知らないだろう。一から教えてやってもいいんだぞ?」


 麗華は呂布の言葉が終わらぬ前に、顔を真っ赤に染めて乱暴にドアを閉めた。


 ◇


 夜も更け、皆が寝静まったころ。突然、空に暗雲が垂れ込め、雷鳴が轟いた。またたくまに真っ黒な雲が集まり、巨大な曹操の姿を形作る。空に現れた曹操は、自信に満ちた顔で声高に笑っている。


 地上では甲冑に身を包んだ呂布が空を見あげ、急に現れた曹操を指さし「曹操、必ずや貴様を殺す!」と絶叫していた。


 ドッカーン!


 落雷の轟音とともに呂布が目を開けた。


 「夢か……」


 一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなり、あたりを見まわすと、部屋の隅に置いてある甲冑が目に入った。


 (そうか、ここは麗華とかいう女の屋敷だった)


 気を取りなおし両手に視線を落とす。


 (!!!)

 

 細くしなやかな女性の手ではない。このゴツゴツと関節の目立つ大きい手は、まぎれもなく自分のものだ。


 「やったぞ! ついに身体を取り戻した!」


 ベッドから興奮して飛びおりた呂布だったが、すぐに表情を引き締めた。さっき見ていた夢を思い出したのだ。呂布は甲冑を身につけ、天に誓った。


 「必ずや曹操を殺す!」


 呂布は、外に出ようとゲストルームのドアを勢いよく開けたものの、予想外の出来事に凍りついた。

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