第13話 はじめての生理痛

 四人はダイニングルームで夕食の食卓を囲んでいる。テーブルには八種類ほどの料理が並べられていた。


 「社長、しばらくこの別荘に来る予定がなかったので、使用人たちには休暇を取らせていたんです」


 「へえ、そうだったのね。バタバタしてて気づきませんでした。じゃあこの食事は誰が?」


 「私が作りました。お口にあいますか?」


 黙々と料理を口に運んでいた呂布が、突然、腹を押さえて苦しそうな表情を浮かべた。額には大粒の汗が浮かんでいる。


 「おのれ……。まさか毒を盛ったのか!」


 「毒なんか盛ってませんって」


 麗華が立ちあがり、呂布のそばにいった。


 「予定どおりアレが来たようですね……」


 「アレとはなんだ?」


 呂布がお腹を押さえながら、腰をかがめて立ちあがる。


 「イテテテテ……」

 

 麗華は呂布の手を掴むと、一緒についてくるように目を合図で送った。


 「寝室に行くわよ。一緒に来て」


 「な…何をする気だ!」


 「いいから、私の言うことを聞きなさい!」


 麗華の剣幕に、思わず呂布は押し黙った。麗華に腕を支えられ、呂布は観念したように寝室へついていった。

 

 寝室へいくと、麗華は薬箱から錠剤を一つ取り出した。


 「これは痛み止めです。私、生理痛がひどいので、これを飲まないとお腹が痛くて夜眠れなくなりますよ」


 「だめだ!飲まん!!こんな怪しい薬が飲めるか!」


 麗華は呆れた顔で「もういいです。勝手にしてください」と言って、呂布をバスルームへと連れていった。


 「汗くさいままだと、取引先に何言われるか分からないので、きちんとシャワーだけは浴びてください」


 麗華がテキパキと呂布の服を脱がしていく。 


 「あと、シャワーを浴びているときは絶対に目を開けないように。わかりましたか?」


 「目をつむって沐浴をしろと?」


 「あなたは三国第一の戦神なんですよね?だったら目をつむってシャワーを浴びるくらい簡単だと思いますけど?さあ、身体を洗ってください」


 呂布は麗華に言われるがまま、渋々シャワーを浴びる。うっかり胸元に手がいくと「そこは触ってはいけません!」と激しくダメ出しをくらった。


 「社長」


 廊下でジェイソンが寝室のドアをノックをした。


 「入りますよ~」


 ジェイソンが湯たんぽを手に部屋に入ると、呂布と麗華の言い争う声が聞こえてくる。ジェイソンは小さくため息をつくと、湯たんぽをベッドの上に放り投げ出ていった。


 ◇


 別荘の玄関先でアイクが庭を見つめている。視線の先には、こそこそとスマートウオッチで電話をかけているジェイソンの姿があった。


 「ジェイソンってイケメンだけど、どうも好みじゃないのよね」


 アイクは残念そうにため息をつくと、腰をくねらせ別荘の中に入った。


 ディスプレーに映し出された中年の男は、昼間、ジェイソンが着信を拒否した人物──ゼウス社の社長、村越宗信である。


 「……村越社長、私が知り得た情報は以上です」


 報告を終えたジェイソンが画面に向かって一礼すると、村越は大声で笑った。


 「まさに天の助けだ。今から、人を送ってそいつらを捕まえるとしよう」


 「いけません」


 「なぜだ?」


 「それはその……彼らは……」


 「私を裏切ったらどうなるか分かっているとは思うが……」


 「あのふたりは身体が入れ替わってるんです!」

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