第8話 巨大な陰謀(人神プロジェクト)

 呂布の体内に宿っていたのは、北条麗華ほうじょうれいかだった。麗華は「水槽」に両手をついて力の限り叫んだ。


 「誰か!!ここから出してください!」


 助けを呼ぼうと口を開けるが、気泡が飛び出すだけで声を出すことができない。


 麗華が培養ケースの外に目を向けると、大勢の警備員が若い女性を取り囲み、じりじりと包囲の輪を狭めている。男装だが、身体のラインはどう見ても女性だ。そしてその女性は汗だくになりながら、絶え間なく襲いかかってくる警備員の攻撃をかわしている。


 (何が起きてるの?)


 麗華は、目の前で繰り広げられている光景に目を見張る。その時、女性が見事な回し蹴りを決め、つけていた仮面を外した。


 (!!!!!!)


 麗華は思わず、ガラスケースに貼りついた。戦っているのは、まぎれもなく自分自身だったのだ。


 ゴボゴボッ……。


 頬をつねり、痛いという声を上げようとしたが、声ではなく気泡が出てきた。麗華は、ゴボゴボと気泡を口から出しながら、必死でガラスをたたく。その音に振り返った呂布は、急いで培養ケースに駆け寄った。


 魂が入れ替わった呂布と麗華は、不思議そうにお互いを見つめ合っている。


 ドンドンドン!


 呂布は猛然とガラスをたたくが、ケースはびくともしない。


 一方、麗華はケースの外にある「Open」と書かれた赤いスイッチを発見し、それを指さしながら呂布に「押して」と身振りで伝える。しかし呂布がスイッチに手を伸ばすと、すぐに飛んできた警備員らに羽交い締めにされ、もみあいになった。


 三国第一の戦神として名をはせた呂布なら、警備員が何人かかってこようと、まとめて始末することなど赤子の手をひねるよりたやすいことだ。けれど麗華の体ではその能力を発揮することができない。ただ身を守るために、すばしっこく動き回り、相手の攻撃を左右にかわすことで精一杯だった。


 しかし呂布は見逃さなかった。


 「隙あり!」


 あっというまに警備員を振りきって、赤いスイッチを押す。なぜかガラスケースが液体ごと消え、麗華がその場にへたりこむ。呂布は息つくひまもなく、再び警備員に囲まれた。


 その時、ジェイソンが会場に駆け込んできた。麗華はジェイソンを見つけると、嬉しそうに声を上げた。


 「ジェイソン!!こちらです!!」


 呂布の姿をした麗華が泣きながらジェイソンに抱きついた。

 

 「ジェイソン、大変です!早くあそこにいる私を助けてください!」


 「うううう……。ちょ、苦しいです!よく分からないのですが、どう見てもあなたの方が社長よりも遥かに強そうですけど……」


 培養ケースに表示された「三国時代の戦神 呂布」の文字にチラリと目をやると、麗華は決意を固めた。深く考えているひまはない。今は自分の身体がピンチなのだ。


 ジェイソンは「社長!」と叫びながら、呂布の方へと走っていく。


 「待って…!ジェイソン!私を置いていかないでください!」


 ジェイソンを追いかけようとする麗華の前に警備員が立ちはだかった。


 (もうこうなったらやるしかない…)


 麗華はやみくもに腕を振りまわし、押し寄せる警備員をなぎ倒しながらジェイソンを追いかける。ふと後ろを振り返ると、気絶した警備員が大量に倒れていた。


 (この身体…もしかして強い?)


 ジェイソンが呂布に駆け寄り、手首をつかんだ。


 「社長、大丈夫ですか? 逃げましょう」


 「やめろ、俺は男になど興味ない!」


 呂布がジェイソンの手を振り払う。麗華もジェイソンに追いつくと、呂布の周りにいる警備員を素手でなぎ倒した。


 「とりあえず、ここから逃げるのが先です!車はどこですか?」


 「入口に停めてます……!」


 呂布の姿をした麗華が、目の前に現れた警備員に体当たりをくらわせながら進んでいく。ジェイソンと呂布もそのあとに続く。三人は、警笛がけたたましく鳴り響くフロアを走り抜けてエレベーターに駆け込んだ。

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