第7話 培養ケースでの目覚め!もう一人の『呂布』
すっかり着替えをすませた呂布は、大柄な男の仮面をつけ、招待状を手にトイレを出た。足をとめて招待状を開くと、突然、笑顔の女性のAI映像が現れた。続けてAI女性が話しかけてくる。
〈親愛なるVIPのお客様、ご機嫌いかがですか? ゼウス社が慎んであなた様を人神プロジェクトの展示会にご招待申しあげます……〉
「これは……」
初めて目にした先端技術に呂布は目を丸くしていたが、すぐにこの女性が偽物であることを察した。
「これで招待状の件は解決だな。それにしても男の服は動きやすい」
保安検査を無事に通過し展示会の会場に入ると、異様な光景が広がっていた。
フロアには、液体に浸かった人間の身体がおさめられた巨大なガラスの培養ケースがいくつも並んでいる。それぞれのケースの上部にはパネルがかかげられ、中の人間の名前と生きていた時代が記されている。その大部分が三国時代のものだった。
仮面をつけた老若男女が思い思いのケースを囲み、あれこれと話に花を咲かせている。
「三国時代の戦神 呂布」と表示されたケースの前では、ぽっちゃりした背の低い女と痩せて背の高い女が楽しそうに談笑をしていた。
「ああ私の白馬の王子様……。ずっと待ち焦がれていた夢の中の恋人とついに会えたのね」
ぽっちゃりした女が、うっとりとした表情でケースに頬ずりをしている。痩せた女が、あきれ顔でぽっちゃりした女の背中に声をかけた。
「ちょっとマリア、やめなさいよ。たかが男じゃない。そこまでする?」
マリアは顔の前で人さし指を立て、分かってないわねと言わんばかりに横に振っている。
「今日は全財産かける覚悟で入札に来ているのよ。本気なんだから…。ハァハァ…」
マリアがアハハと声をあげて笑うと、つられて痩せた女も笑い出した。
その時、突然、彼女たちの表情が固まった。
ケースの反対側に、スーツ姿で女性の姿の呂布がヒキガエルのように貼りついている。マリアは呂布の前へツカツカとやってくると、睨みをきかした。
「あなたね、他を当たりなさいよ。私の王子様を男と取りあう気はないから!」
腰に手を当てて呂布を叱責するマリアを、痩せた女がたしなめた途端、呂布が大声を張り上げた。
「黙れ!!これは俺の身体だ! それをこんなところに閉じ込め、慰みものにするとは不届き千万!」
マリアはゆっくりと呂布に歩み寄り、バッグから名刺を取り出し鼻先に突きつけた。
「私を誰だと思ってるの? 世界トップ500にランクインしてるフューチャー・ファーム社長の……」
ドスン!
呂布がいきなり拳を振りあげガラスケースをたたく。
「キャー! 何するの? 誰か来て!」
「この透明な板は何だ? なぜこんなに堅い?」
痛そうに手を振りながら呂布が首をかしげている。
そこへ悲鳴を聞きつけた警備員たちが駆けつけた。手にはスタンバトンを持っており、入口にいた警備員より強そうな印象だ。
「何事ですか!」
「この人が!」
マリアが呂布を指さすと、警備員がそれぞれ呂布の両脇を抱え込む。しかし呂布は、肩と腰を大きく動かし、警備員の腕を簡単に振りほどいた。それを見ていた他の警備員が、次々と襲いかかる。呂布はきゃしゃな身体を俊敏に動かし、彼らを次から次へとはらいのけた。
しかしいくら倒しても、警備員の数が減らない。またたくまに会場内はパニックに陥り、仮面をつけた招待客たちは、口々に抗議の声をあげながら逃げていく。
───警備員は何してる!
───だからボディーガードを同伴させると言ったんだ! もし私に何かあれば責任を取れるのか?
───VIPを呼んでおいて、警備が甘いんじゃないのか? この役立たずめ!
───こんな危険なところ、来るんじゃなかったわ!
───もういい、早くここを出よう。
そんな騒ぎの中、培養ケースに入れられた「呂布」がゆっくりと目を開けた。
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