第6話 なぜこの身体には毛がないのだ!?

 「この俺様の行く手を阻む者は……」


 「社長、こちらに来てください!」


 ジェイソンは、後ろから覆い被さるようにして呂布の口を塞ぐと、そのままの体勢でひとけのないところまで引きずっていく。


 「ぐえっ」


 呂布の肘鉄をくらったジェイソンは、腹を押さえてひざまずいた。あまりの痛みに身体が震え、何十年も寿命が縮んだような気さえしてくる。


 呂布は痛そうに腕を振ると、改めて自分の新しい身体をまじまじと眺めた。


 (なんて弱いんだ。力も速さも話にならん)


 ジェイソンは腹を押さえたまま立ちあがった。


 「社長、ここの警備はかなり厳しいので、強行突破は不可能です」


 「警備? さっき入口にいた奴らのことか?」


 呂布は不思議そうな顔をする。そして「俺に任せろ」と言って入口へと足を向けた。


 「ダメですって!」


 ジェイソンは慌てて呂布を引きとめる。


 「きっとどこかに大勢の警備員を待機させてるはずなので、取り押さえられますよ。それより招待状を手に入れるべきです」


 「大軍が潜伏してるのか…? それは厄介だな」


 呂布は腕組みをして考え込む。


 「待て。お前今、何を手に入れると?」


 「招待状です」


 ちょうどその時、仮面をつけた男がふたり、雑談をしながらトイレに入っていった。彼らは、どちらも表にゼウス社のロゴが印刷された招待状を手にしていた。


 (さっき見たのと同じ模様だ……)


 「見ました? あれが招待状です」


 ジェイソンが呂布に耳打ちをする。呂布は、なんの迷いもなく、男たちのあとについていった。


 「いけません。ここは男性用のトイレですよ!」


 「貴様、また俺を引きとめるか!」


 呂布はジェイソンを蹴り飛ばし、再び肘鉄ひじてつの構えをする。それを見たジェイソンは、思わず腹を押さえてあとずさった。


 ◇


 スタイリッシュな装飾が施された男性用トイレでは、仮面をつけた大柄な男と、小柄な男が便器の前に並んで立ち、雑談をしながら用を足している。


 「ついにこの日が来たな! ゼウス社の人神プロジェクトのお披露目だ。この2年が実に待ち遠しかったよ。しかしほんとに古代人が復活するのか?!」


 大柄な男は興奮で頬を紅潮させている。それを聞いた小柄な男がニヤリと笑った。


 「金さえ積めば、その古代人と話をしたり飯を食ったりできるらしい。なんなら甘い過ごすごすことだって夢じゃない。へへ……、結城社長は一夜を共にするとしたら誰がいい?」


 「そうだな……。女はもう飽きたから、どうせ遊ぶなら豪傑がいいかな。例えば、三国第一の戦神呂布なんかが……」


 結城が背後にただならぬ殺気を感じて振り返ると、鬼の形相をした呂布が立っている。結城は一瞬ぎょっとしたが、相手がか弱い女と見てゲスな笑みを浮かべた。小柄な男も振り返り、呂布を値踏みするように眺め回している。


 「きれいなお嬢さん、何か用かい? へへ……」


 「………」


 呂布は近づいてきた結城の仮面を左手で素早くはぎ取ると、右の拳を相手の顔面にねじ込んだ。


 「三国第一の戦神ならここにいるぞ。のぞみどおり遊んでやろう!」


 さっきまでニヤニヤしていた小柄な男は、結城を殴り倒した呂布を見て青ざめている。呂布と目があい、きびすを返して逃げようとしたが、首根っこをつかまれ引き戻された。


 「誰か……グホッ……」


 大声で助けを呼ぼうとしたが、こちらも顔面に拳をくらい仮面が粉々に割れた。ふたりは反撃しようと立ちあがる。けれどあっさりと地面に打ち倒され、ピクリとも動かなくなった。


 呂布は、小柄な男の身長を手のひらでざっと測る。そして素早く服を脱がせると、自分も順に服を脱ぎ捨ていった。最後にブラジャーを外す。


 「よくも身体をここまで締めつけられるものだ」


 裸になると、呂布は自身の体を改めてまじまじと見つめた。手の平サイズに丸く盛り上がった乳房、ピンク色の小さな乳首、へその小さなくぼみ、ウエストから腰にかけての曲線のラインはすべて黄金比のように美しい。呂布は陰部を見つめながら、首を傾げた。


 「なぜどこにも毛がないのだ…?変な身体だ」

 

 呂布は不思議そうな表情を浮かべながら、小柄な男の服を、見よう見まねで身につけていく。脱いだ服は、パンツ一丁になったみすぼらしい身体の上に投げ捨てた。

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