第5話 行き先は十八層地獄
世界貿易ビルのエントランスホールで、呂布は、もの珍しそうにきょろきょろと周囲を見回している。あとを追ってきたジェイソンは、足早に呂布に歩み寄った。
「あの……社長、聞いてもいいですか? なぜ急にゼウス社にご興味を?」
「つべこべ言ってないで、さっさと案内しろ!」
「はい!」
ふたりがエレベーターの前まで来ると、すぐにドアが開く。ジェイソンは左手でドアを押さえ、右手で呂布を中へと促す。しかし呂布は、いぶかしげな表情をしてその場から動こうとしない。
「お先にどうぞ」
ジェイソンが声をかけてみても、やはり呂布は動かない。
(なんだ、この狭い箱は? どう見ても罠ではないか)
呂布は、眉根を寄せながらエレベーターの内部を観察している。ジェイソンは恐る恐る自ら先にエレベーターに乗り込み『開』ボタンを押した。
「あの…社長。展示会の会場は、地下18階なんです。こちらが唯一、直通のエレベーターなので乗っていただかないことには……」
(18だと? やはり行き先は十八層地獄か! なるほど。閻魔大王に直談判すれば、生き返ることができるかもしれん……)
呂布はエレベーターに足を踏み入れると、壁に背中を貼りつけた滑稽な姿勢で、あたりを警戒し始めた。
「大丈夫ですか?」
ジェイソンが心配そうに尋ねても何も返事をしない。エレベーターは、あっという間に地下18階に到着した。
ピンポーン──。
到着のチャイムが鳴りドアが開くと、呂布は脱兎のごとくエレベーターから走り出した。
(閻魔大王の御殿は、やはり恐ろしいところだ! 早く身体を取り戻して元の世界に帰らねば……)
呂布は、あっけにとられて立ちつくすジェイソンを振り返った。
「ぼんやりするな。早く案内しないか!」
◇
展示会場の入り口では、背中に「Security」の文字がプリントされた制服姿の警備員十数人が、保安検査を実施していた。フォーマルな衣装に身を包み仮面をつけた幾人もの男女が、検査を終えてゆったりと会場に入っていく。聞こえてくる言語は様々で、世界中から客が集まっていることがうかがえる。
呂布とジェイソンも中に入ろうとしたが、あっけなく制止された。わけが分からず不機嫌な顔をしている呂布の横で、ジェイソンは名刺を取り出し警備員に見せる。後方にいた警備隊長とおぼしき男がめざとく名刺の文字を見たのだろう。さっと進み出てきて、両手で名刺を受け取った。
「これはこれは、あの北条グループの。失礼ですが招待状はお持ちでしょうか?」
呂布は、ぶしつけに警備隊長をにらみつけたが、ジェイソンは落ち着いた声で事情を説明した。
「実は先日、こちらで弊社のビジネスフォーラムを開催したのですが、その時に社長がピアスを紛失してしまったものですから……。ああ、こちらが社長の北条です」
「お名前はかねがね。あの有名な北条社長でしたか」
そう言ってうやうやしく頭を下げる。
「ですが……招待状をお持ちでないと会場にご案内することはできません。」
「招待状ですか? ただピアスを探すだけなのに、ずいぶん大げさですね。お願いします。社長がとても大切にされているものなのです」
ジェイソンは食い下がるが、警備隊長は申し訳なさそうに作り笑いを浮かべるばかりだ。
「お気持ちはお察しします。しかしですね……上の命令ですので私の一存でお入れするわけには」
腰を低くしてこびへつらってはいるが、がんとして聞き入れるつもりはないらしい。
ジェイソンはさっと周囲を見渡した。
(これほど警備が厳重なら、もっと警備員が潜んでいてもおかしくない。こうなったらどこかで招待状を調達して出直した方がよさそうだ……)
すると突然、呂布が前に進み出た。
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